パリッ、ポリッ。ポテトチップスの音が、研究室に鳴り響く。快音とは対照的に、その中心にいる白井秀隆の顔はさえなかった。
「これからの湖池屋にふさわしい、全く新たなポテトチップスを作ってほしい」
この言葉が頭にこびりついて離れなかった。言葉の主は、社長の佐藤章。かつて、キリンビバレッジで生茶などを大ヒットさせた、伝説的なマーケッターだ。
湖池屋を取り巻く環境は決して芳しいものではなかった。ポテトチップスで55年の歴史を持ちながら、ライバルのカルビーにシェアで後塵を拝していた。店頭での安売りが常態化し、ポテトチップスはすっかりコモディティー化していた。
2016年、改革の旗手として、佐藤が大株主の日清食品ホールディングスから送り込まれ、大改革を断行した。社名の変更や新たなロゴマークの作成、創業の原点に立ち返った“湖池屋品質”を掲げ、ブランドを刷新したのだ。
白井は、新生湖池屋の第1弾となるプレミアム市場を狙った新商品の開発チームを任された。
言うはやすく、行うは難し──。この要求に白井は頭を抱えながら、社運を懸けた商品だと自分を奮い立たせた。