人は自らの経験から最も多くのことを学び、成長する。この「経験学習」の考え方は、昨今、とくに人事部門の関係者には、広く浸透している。また、それをベースに人材育成の施策を構築する企業も増えている。ここでは、経験学習の基礎を解説してみたい。
同じような仕事経験をしても
その経験から学んで成長する者とそうではない者がいる
「若手が思うように育たない」「素直だが言われたことしかしない」「もっと頑張れるはずだが、欲がない」……。
若手社員の育成を担当するマネジャーや先輩層のなかには、おそらくさまざまな若手観があるはずだ。上記のように不満を抱えたり、困難を感じる向きもあるだろう。なかには、前触れもなく若手に辞められてしまった、などという経験をした方もいるかもしれない。
40代50代の方なら、自分が育ってきた道筋を振り返り、育成環境や若手のマインドが様変わりしてしまったことに気づいているはずだ。
たとえば、「四の五の言わず仕事をしろ!」とか「いいからやれ!」は通用しなくなった。多くの若手は、仕事の説明を求めるし、上から目線は嫌われる。
では、どのように若手に接し、成長を促せばいいのだろうか。
もし、これといって育成のメソッドをご存じないのであれば、ぜひ「経験学習」の考え方を理解してほしい。
社会人の学びに関して「70:20:10」という数値がある。
成人の学びの70%は自分の仕事経験から、20%は他者の観察やアドバイスから、10%は本を読んだり、研修を受けたりすることから得ている、ということを示している。まず、このことを念頭に置いてほしい。
成長の70%を占めるほど影響力のある「経験」を、どのように積ませるか。まずは、これが育成の課題となる。
というのは、同じような仕事経験をしても、その経験から学んで成長する者と、そうではない者がいるからだ。
やりかたによって成長に差がつく。そこにマネジャーや先輩層が関与する余地がある。
<業務→経験→内省→新しい状況への適用>
という経験学習サイクル
『経験学習入門』(小社刊)を著した松尾睦・北海道大学大学院経営学研究科教授は、経験学習によって成長するための条件を次のように説明する。
「経験学習モデルによると、人は①“具体的な経験”をした後、②その内容を“内省し(振り返り」”」、③そこから“経験”を引き出して、④その経験を“新しい状況に適用する”ことで、学んでいるのです」(前掲書より)
業務を通して一通りの経験をしても、やりっ放しでは自分の力にはなりにくい。必ず振り返ること。仮に失敗をしたとしたら、なぜ失敗をしたのか、どうすればそれを防げたのか、と考える。それによって、次の仕事でそうならないための手立てを工夫することができる。わかりやすく言うと、そういうことだ。
ここでマネジャーや先輩のサポートが生きる。
ひとりで、自分なりの振り返りをすることは大事だが、そこでマネジャーや先輩が対話の相手になり、「どこが良かったと思う?」「やり方を改善するとすれば、どう変える?」というような問いかけをすることによって、振り返りの質は高まっていく。