昨今、「リスクマネジメント」をテーマとした記事は、目に触れない日はないほど、世の中に溢れている。リスクマネジメントは重要なテーマであることは疑いの余地はないものの、なぜ、経営の実務とあるべき論としてのリスクマネジメントの間には、大きな隔たりが存在するのか。確かに、リスクマネジメントをしっかりと取り組んだとしても、売上や利益の向上といった、目に見える形には表すことは難しいのかもしれない。しかしだからといって、経営者は新しいビジネスに挑戦する上でのリスクや、新しい市場への参入に伴うリスクをマネジメントしないわけにはいかない。

本連載では、経営の実務に資するリスクマネジメントについて、調査結果や事例を交えながら解説していきたい。

ビジネスの成長と
ビジネスリスクマネジメント

「攻めのIT」と「守りのIT」は表裏一体上原 聖(うえはら さとし)
EMCジャパン RSA
ビジネスデベロップメントマネージャー

外資系コンサルティングファーム、国内大手シンクタンクにて、事業戦略策定、新事業開発、全社的リスク管理(ERM)、内部統制、事業継続管理などのビジネスリスク分野から、情報セキュリティ、ITサービスマネジメントなどのテクノロジー分野までの幅広いコンサルティング業務に従事。その後、2016年9月にEMC Japan入社、RSAに配属。GRC事業のビジネスデベロップメントマネージャ兼GRCコンサルタントとして様々な企業の課題解決、並びにGRC分野の普及活動などに従事している。博士(経営学)、中小企業診断士、CIA、CISA、ITIL Manager

 2017年3月に公表されたガートナーによる調査「The 2017 CEO Survey: CIOs Must Scale Up Digital Business」によると、CEOのトッププライオリティとして“ビジネスの成長”があげられている。興味深いことは、テクノロジーの活用、最近のバズワードで言うところの“デジタルトランスフォーメーション”がセカンドプライオリティにあげられていることである。

 このことは、ビジネスの成長とテクノロジーの活用は、今や切っても切れない関係にあるということを示している。すなわち、現在のビジネスの成長は、テクノロジーの活用からもたらされることと同義であると言えよう。

 例えば、サーバー、ストレージ、ネットワークなどをインターネット経由で配信する「クラウドコンピューティング」の例としては、安価かつ高品質のITインフラを提供するAmazonのAWS、マイクロソフトのAzureなどの画期的なサービスを上手くビジネスに活用することで、企業のIT投資におけるスケールや柔軟性を保持することが可能になった。また、様々な製品やサービスをインターネットに繋げる「IoT: Internet Of Things」により、インターネットとITを駆使したテスラモーターの新型自動車やスマート家電などのような、新しい製品・サービスを提供することも可能だ。

「攻めのIT」と「守りのIT」は表裏一体出典:EMCジャパン RSA