東日本大震災によりハイテク産業の集積地であった東北地方が大きな被害を受けたが、一年も経たないうちに日本企業にとって重要な海外生産拠点の1つであるタイで大規模洪水が発生、多くの企業が浸水被害を受けた。そこで震災時と同様、今回も深刻な事態に陥ったのが「サプライチェーンの混乱」だ。自動車、電機、流通などあらゆる業界でサプライチェーンが寸断され、製品やサービスの供給が停滞。その影響が世界中に波及した。

震災後、日本企業ではサプライチェーンの進化が叫ばれていたが、なぜ多くの企業が再び同様の問題に直面することになったのか。また、“地震大国”日本だけでなく、重要な海外拠点でも自然災害のリスクが露呈した今、どのようにリスクと向き合い、どうサプライチェーンを進化させていくべきか。洪水被害の全容が明らかになりつつある今、これまで数多くの日本企業にサプライチェーン・マネジメント(SCM)に関する助言をしてきた野村総合研究所の藤野直明・主席コンサルタントに、日本企業によるタイ進出の今後と日本型SCMの改善策を聞く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

大洪水で再び露呈した「日本型SCM」の脆さ
タイ撤退?ジャスト・イン・タイム見直し?の可能性

ふじの・なおあき/野村総合研究所 主席コンサルタント、ビジネスイノベーション事業部長。1962年生まれ。早稲田大学理工学部物理学科卒、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程(情報技術社会相関部門)単位取得。86年野村総合研究所入所。ロジスティックスを中心に、民間企業、政府機関、運輸省、通産省などの調査研究に携わる。繊維産業審議会 基本政策小委員会委員、総務省「国際競争力回復のための企業IT化調査委員会」委員、国土交通省「港湾SCM研究会」委員などを歴任。現在、幅広い分野でSCM革新コンサルテーション業務に従事。

――東日本大震災後と同様、タイ大洪水により日系企業の多くが浸水被害を受け、生産・供給が停滞、あらゆる業界でサプライチェーンが寸断した。日本企業にとり、タイは最重要生産拠点の1つだが、今回の災害により、日系企業がタイから撤退するという選択肢はありえるか。

 業種や企業によって事情が大きく異なるので、一般的な議論はなかなか難しい。しかしながら、東日本大震災時と今回の大洪水による被害とを比較すると、震災の起きた東北地方では、東北のみで製造されており、かつ他では代替生産が利かないクリティカルなパーツが多かったのに対し、タイでは代替生産可能なものも多く、被害のグローバルオペレーションに対する影響は東日本大震災時よりも小さいと考えている。

 もっとも、今回のタイ大洪水による被害は、現地に生産拠点を抱える企業にとって痛手が大きかったのは確かだ。今回の洪水被害によって生産拠点としてのタイは、明らかに脆弱性を露呈してしまった。