事業に失敗はつきものである。米シリコンバレーのように起業が起業を呼ぶ「エコシステム」ができていない国では、失敗のリスクをどう減らしていくかが起業家を増やす鍵となる。フランスの二つのコミュニティから、そのヒントを探る。(週刊ダイヤモンド編集部 小島健志)
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しくじり先生を雇う
相互扶助的な「コミュニティ」
起業家としてやはり怖いのは事業に失敗すること。それは日本でもフランスでも同じことだが、失敗した起業家を積極的に雇おうとするユニークなコミュニティがパリにある。それがThe Family(ファミリー)だ。
ファミリーは、2013年に起業家の支援のために発足。イギリスやドイツにも拠点を持ち、スタートアップ企業が約250社参加している相互扶助的な組織である。
ファミリーのメンバーになると、パリのコワーキングスペースを24時間利用できるようになるだけではなく、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を筆頭に、サービス開発に必要な各種クラウドサービスも利用できる。
だが、ファミリーの真骨頂は、「人」による支援にある。起業家の育成を手掛けるだけでなく、職業訓練学校を設けて、スタートアップに就業したい人、つまり従業員向けの養成講座を開いているのだ。
注目すべきはその講師だ。ファミリーでは失敗した経営者、つまり“しくじり先生”を講師として雇っているのだ。
講義だけではない。メンバーである他のスタートアップへの紹介やあっせんといった支援策も用意している。こうすることで、たとえ事業に失敗しても積極的に雇用の機会が与えられるのである。
スタートアップの支援に「攻め」のプログラムは多数あるが、「守り」のものはほとんどない。なぜこうした“セーフティーネット”が必要だと考えたのか。