アルファベットの「書き順」も気にしなくていい

フォニックスの考え方は、親世代が受けてきた学校教育とは大きく異なっています。
僕が地元の公立中学に通い出したときは、まず最初にアルファベットの書き方を習いました。いまでも覚えているのが「ペンマンシップ」という運筆練習帳です。これを使ってアルファベットの書き順や「小文字のpは下にはみ出す」といったルール、さらには筆記体の書き方などを習いました。

外国語習得の常識からすると、これも明らかなムダです。とくに、日本語の文字を美しく書くための「書き順」の文化が、「英語」の授業に入り込んでいるのは奇妙きわまりないと思います。

たしかに英語のアルファベットにも書き順はありますし、それを習得すればすばやく文字を書けるといったメリットはあります。
しかし、たとえばアメリカでは、もはや筆記体は学校教育のカリキュラムから除外されていますし、筆記体を読めない・書けないという人も若者を中心にかなり増えています。ですから、海外で暮らすにしても、筆記体がわからなくて困ることはほとんどありません。考えてみれば僕たちも、古文書の行書や草書なんて、ふつうは読めませんよね。

ここで僕が言いたいのは、「書き順なんか守るな」とか「筆記体はいらない」ということではありません。大事なのは「何を優先するのか」です。
「英語をマスターすること」が目的なら、書き順などに拘泥するのはナンセンスです。いくらここを改善しても、英語を使える子は育たないからです。

逆に、たとえ子どもであろうと(いや、子どもだからこそ)、フォニックスには徹底的にこだわるべきです。

本当の英語脳を育てるためには、これこそが最短ルートだからです。音と文字との対応関係を体得してしまえば、英語で「話す」「聞く」だけでなく、英語で「読む」「書く」、さらには英語で「考える」ための力を高めていくことも容易になります。

フォニックスが「幹」なのだとすれば、書き順などは「枝葉」です。親子に与えられた貴重な時間は限られていますから、ぜひ「枝葉」に余計なエネルギーを割かないように気をつけていただければと思います。

(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)

【著者紹介】斉藤 淳(さいとう・じゅん)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。