ベストセラー『地頭力を鍛える』で知られる細谷功さんの最新刊『考える練習帳』(ダイヤモンド社)では、眠れる思考回路を起動させる45のレッスンを解説しています。今回は、『ビジネススクールで身につける 思考力と対人力』の著者で、グローバルインパクト代表の船川淳志さんと細谷功さんの対談をお届けします。お2人に共通するのは、元東芝の社員で現在はコンサルタントをしている点。異文化コミュニケーションとグローバル経営を専門とするコンサルタントと、思考法の第一人者。この2人が語るAI時代を生き抜くための「考える力」とは、一体何か?

細谷功氏と船川淳志氏。

上司から「髪の毛を切れ」といわれても、反発して切らなかった

船川 東芝時代は周囲の人たちからは、変わった奴だと見られていたのですか?

細谷 どうでしょう。でも、無意識に「着ぐるみ」をちゃんと着ていたから、そんなに変な奴には見られていなかったと思いますよ。

船川 そこはしたたかですね。私なんかは、不器用だったから、もう会社に入るときから着ぐるみ拒絶でしたからね。(笑)

細谷 それはすごい。私は会社の掟にしたがっていたし、団体行動もとっていました。

船川 私は、当時長髪だったんですけど、上司から「髪の毛を切れ」といわれても反発して切らなかったですからね。そういう時代でもあったけど。

細谷 私は、東芝にいたときは、着ぐるみを着ているということすら気が付いていなかったですね。でも、辞めてみて初めて「着ぐるみを着てたんだ」ということがわかりました。

船川淳志(ふなかわ・あつし) 株式会社グローバルインパクト代表パートナー 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。東芝、アリコ・ジャパン勤務の後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にて修士号取得(MBA in International Management)。その後、米国シリコンバレーを拠点に組織コンサルタントとして活動。帰国後、グロービスのシニアマネジャーを経て、グローバルインパクトを設立。NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話」、ビジネス・ブレークスルー大学「実践ビジネス英語講座」の講師も務めた。著書に『ビジネススクールで身につける 思考力と対人力』(日本経済新聞社)、『ロジカルリスニング』(ダイヤモンド社)など。https://www.globalimpact.co.jp/

船川 少年時代はどんなふうでした。変わってましたか?ご兄弟は?

細谷 一人っ子です。だからめちゃくちゃわがままです(笑)。

船川 ご両親は、教育熱心でした?この質問、「地頭」を鍛えるヒントにもなるかと思いますので。

細谷 勉強しろとは言われなかったですね。逆に、それが良かったんでしょうね。

船川 やはり、親からの強制が強すぎないというか、自由奔放とは言わないけれど、恐らくご両親の「さじ加減」がうまかったのでしょうね。高校時代は、何に熱中してたんですか。受験は?

細谷 科科系の本ですかね。受験はどうやったら効率的に抜けられるかを考えてましたね。

船川 もともと効率性を考える思考回路だったんですね。コンサルの人はそういう人が多いんですよ。

なぜ、幼少のころの話をあれこれお尋ねしたかというと、発達心理学、教育心理学などの観点からも、自我を確立するときに重要なのが、親から愛情をしっかり受けて育てられたかどうか。承認欲求が満たされて育ったかが重要だからです。それに、加えて子どもは好きなことには熱中するし、それを上手く育てると伸びていくというのは最近、実感するのですよ。その意味で「さじ加減」が大事であるということです。

人を困らせる質問に、どう答えるか?

船川 バブルが崩壊して、本来の意味での地頭力が求められてきたのは、私がシリコンバレーから戻った翌年、1996年ごろからだと思います。それで『地頭力を鍛える』が出たのはいつでしたっけ?

細谷 2007年ですね。

船川 そのあと大学の生協にその対策本がたくさん並びましたよね。二番煎じ、三番煎じ、四番煎じと……。面白いことに、高偏差値の大学ほど、それらの対策本が売れたようですね。

細谷 功(ほそや・いさお)ビジネスコンサルタント、著述家 1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業。東芝を経て、日本アーンスト&ヤングコンサルティング(株式会社クニエの前身)に入社。2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングのみならず、問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の企業や各種団体、大学などに対して実施している。著書に『地頭力を鍛える』『まんがでわかる 地頭力を鍛える』(以上、東洋経済新報社)、『「Why型思考法」が仕事を変える』(PHPビジネス新書)、『やわらかい頭の作り方』(筑摩書房)などがある。

細谷 そうみたいですね。じつは、あの本を出したあと、「フェルミ推定の問題集や対策本を書きませんか?」と、何社もの出版社から依頼がありました。それでは本末転倒になると思ったので、全部お断りしましたけど。

船川 それは、素晴らしい!というか、潔いですね。私、今年出した本に書きましたが、「試験の傾向と対策本アタマ」は地頭の対極ですものね。

話は変わりますが、「どうやったら細谷さんみたいに頭がよくなれるんですか?」とか、「どうやったらそんなにたくさん本が読めるんですか?」ってよく聞かれるでしょ。そんなときはどう答えてます。

細谷 その手の「答えをください」っていう質問は「状況によります」としかいえないんで、答えがむずかしいですよね。自分の本に書くときには必ず「こういう場合は」という前提条件をつけていますが、いきなりそういうことを聞かれた場合は、つい「大人の対応」で無難な回答をしてしまいますね。「質問の筋が良くないですね」とはいえないので(笑)。

船川さんは、どう答えていますか?

船川 そういうとき、私は最近ではこう答えます。「1つ、私が教養人に見えるとしたら、それはあなたがこれまでの人生の中で、たまたま教養人っぽい人に会ってこなかったということだし、ベンチマークすべきは、他にいる。2つ、あなたも私もまだ圧倒的に知識が少ないし、思考の深さが足らない。だから、お互いにもっとがんばろうね」と(笑)。

着ぐるみのファスナーは内側にしかないから、
自分でしか開けられない

船川 会社にいながら着ぐるみを着ていることに気が付いてしまって、かつ、それが嫌な人はどうしたらいいと思います。会社にいながらでも脱ぐのか、それとも会社をやめるのか?

細谷 会社にいながら脱いだら、相当つらいと思います。息苦しくなりますよ。風当たりも強くなるし。

船川 そうですね。やはり縦社会というか、組織の論理というのはありますから。

細谷 もし脱ぐ必要がなくて、それでも一生終われるなら、それはそれで幸せなんですよ。一生気が付かないというのも。でも、一度その良さに気づいてしまうと、潜在的にそういうことを考えている人たちに気づかせてあげたくなっちゃう。だから、この本にもそういうことも書いたんですけどね……。

船川 着ぐるみは、別の言葉で言うと垣根とも言えるでしょうね。あるいは仮面というか。

細谷 着ぐるみのファスナーは内側にしかないから、自分でしか開けられないんですよ。天照大神の天岩戸も内側からしか開けられない。

船川 それは上手いメタファーですね!

細谷 で、あるときに、どうもこの外側にもっと楽しい世界があるらしいぞと、何となく感じ始める。そうすると内側にファスナーがあるのがぼんやり見えてきて、それを開けたら「うわーっ」と外の光が入ってきて違う世界が見えてくるというか。それで、外に出ちゃうと、もう戻れない。大きな会社にいられなくなっちゃうんです。船川さんも私もそうですよね。

船川 そうそう。

細谷 だからといって、本当にわたしたちの言うことを聞いていいのかというと、これぞ状況や価値観によります。人によっては危険かもしれないし、今より不幸になっちゃうかもしれない。そこは疑問ですよね。

船川 そのアンビバレントな気持ちというか、罪を認識しながら教えるというか、伝えたいという思いを持つというのは、実は切ないんですよね(笑)。

細谷 私が本という手段をとるのは、その第一歩を踏み出した人しかその世界に来ないからです。着ぐるみの人に面と向かって、「あなたは着ぐるみを着てますよ、早く脱いでください」といっても、「こいつアタマおかしいのか」と思われて反感を買うだけに終わるのが落ちです。それだと、相手も嫌な思いをするし、こちらも嫌な思いをする。で、何の結果にもつながらないという「三重苦」になってしまう。

船川 その通りですね。「余計なお世話をするウザイ奴」以外なにものでもないですよ。

細谷 なんかおかしいなと気づきはじめた人に、外の世界の素晴らしさを教えてあげるというか。自分が見た世界はいいよということを伝えたいというか。それが自分のミッションかなと思っているんですけど。

船川 着ぐるみが嫌な人間は、はたして組織で生きられるか?2018年以降の新しいパラダイムは、「着ぐるみから逃げようとする社員と、会社は新しい関係を築けるか?それができた会社だけが真のイノベーションを起こせる」ということでしょうかね。私も、まさに「伝えきれぬもの」と認識しながらも、言葉を尽くして伝え続けていきたいと思います。

細谷 みんなが「自分の頭で考える」ようになると、当然、このままでいいのか?という疑問を持つ人が増えてきます。そうなったときに、もし優秀な社員に去られたくなかったら、会社が一歩進んで社員と新しい関係を築けるか。働き方改革というか、会社と社員の新しい関係づくりが必要になってくるのかもしれませんね。

本日は、どうも、ありがとうございました。

船川 まさに、そこまで行けたら本当の「働き方改革」ですもので。いやー、こちらこそありがとうございます。ぜひ、どこかでまた続きをやりましょう!

(おわり)