「腸内細菌」を飢えさせると、脂肪が燃える
あなたがハッカーだとしよう。新しいコンピュータに侵入したはいいが、同業者に先を越され、そこはすでに支配されていた。あなたは自分のコントロールシステムを設置し、相手ハッカーがシステムを荒らすのを防ぐ措置をとりたい。じつは、この相手ハッカーというのが腸内細菌だ。腸内細菌はシステムを乗っ取って、食物への渇望を起こさせ、不自然なほど多くの余分な脂肪を体に蓄えさせる。
ヒトの体は、脂肪の燃焼と貯蔵をコントロールするよう精緻に調整されたシステムである。肝臓が、絶食誘導脂肪因子(FIAF)というタンパク質を生成する。FIAFの役割は、体に脂肪を貯蔵させるリポ蛋白リパーゼという酵素を阻害することだ。肝臓は必要に応じて適量のFIAFを生成し、FIAF濃度が高いときに余分な体脂肪が燃やされる。
問題は、腸内細菌もFIAFを作っていて、自らの目的のために操ることだ。腸内細菌はあいにく高脂肪・高糖質食を摂っているときにFIAFを抑制し、脂肪を燃やすよりむしろ蓄えるように働くと考えられている。もっとも、腸内細菌はどれも悪玉というわけじゃない──正しい種類が正しく働くかぎり、体に良いものだ。ただし、大量すぎたり悪い種類がいると、肥満につながりかねない。
幸いにも、この相手ハッカーを出し抜く方法はある。腸内細菌はでんぷんや糖質に「飢えた」とき、空腹になる。空腹になった細菌はFIAFを生成し、体脂肪を燃やしてくれるのだ。しかし糖質やでんぷんが供給されるとFIAFの生成がストップし、脂肪が蓄えられていく。