遅れるのは仕方がない! 納得させる理由を考える?
以前、ある外資系のプラント建材メーカーの日本支社で研修をやったことがありました。この日本支社では、国内のお客様から部品を受注しています。ところが、その納期がいつも守られないというのです。本国の工場からの納期が遅れることがその原因でした。本国の工場に発注をかけるのですが、受注生産のため、注文を受けてから製造することになります。
お客様からは「まだか、早くしろ」と催促がくるし、本国をつっついても、「いまやっているから」と答えるばかり。まったく急ぐ気配すらありません。営業マンは、まさに両者の間で「窮地に陥っている」わけですね。
最初にこの話を聞いたとき、私はすかさずこう提案しました。「それは社長、あなたの責任ではないですか。お客様が困っているのだから、社長が直接、本国へ出向いて直訴してでも、納期をきちんと守らせるべきなのでは……」
ところが、このA社長、とんでもないことを言い出したのです。
「立場上、彼らのほうが強いし……、これは日本サイドでいくら騒いでも、どうにもなることじゃない。だから、それは仕方ないものとして、逆に、日本側のお客様を納得させる言い方を考えてほしい……」。
最初、これを耳にしたとき「そんな馬鹿な!」と正直思いましたが、案外、外資系の日本支社という立場では、これが現実なのかもしれません。そのことに社長は気づいていたのです。
■納期が遅れるのが悪い → 納期を守るべきだ
■納期が遅れるのは仕方がない → その遅れをどうお客様に納得させるか
結局、「あらかじめ、余裕を持った納期回答をしておく」「時間をかけてよりよい物をつくっている」「製品の品質をアピールし、待ってでも欲しいものと思わせる」など、いくつかのアイデアが出ました。
もし、このケースで、「どうすれば、本国の工場に納期を守らせることができるか」という枠組みで考えはじめてしまったら、莫大な時間や労力がかかるばかりか、本国から見れば、立場をわきまえない抵抗分子としか見られなかったかもしれません。
ここで正論を振りかざすより、議論の枠組みをちょっとずらして設定したA社長はお見事でした。