万人向け原理を「ウチの子専用」に最適化する

どんな科学・学問も、競合する仮説のなかから妥当性の低いものを排除し、一般的に成り立つ法則性を検出することに力を注いでいます。

これはSLA研究も例外ではありません。つまり、言語習得の科学でわかるのは、誰にでも共通する基本原理でしかありません(Richards & Rogers, 2001; Celce-Murcia et al., 2015)。

裏を返せば、SLAの原理を個人レベルで実践に移そうとする際には、必ず工夫が必要だということです。
教室空間で生身の子どもたちを教えている僕たちも、やはり反応を見ながらやり方を調整する余裕がないと、上手な指導はできません。子どもたちに自ら学ぶ姿勢を持たせるためには、一人ひとりの個性や関心を汲み取り、それを指導へと落とし込むための、職人芸的な創意工夫が求められるのです。

そこで、学習時期の調整と並んで重要になるのが、学習コンテンツの調整です。
子どもの学習について言えば、次の2点がカギになります。

1. お子さんの「レベル」にあったコンテンツか
2. お子さんの「興味・関心」に沿ったコンテンツか

たとえば、SLA的には「音の大量のインプット」が不可欠とされていますが、そのコンテンツがそもそも学習者に理解可能でなければ意味がないとされています。ちんぷんかんぷんな内容をいくら大量に“聞き流し”してもダメなのです。
この理解可能なインプット仮説(Comprehensible Input Hypothesis)はSLA理論の源流となる考え方でもあります(Krashen,1982)。

また逆に、学齢が進んだ子に対して、いつまでも幼児向け教材を与えるのも適当ではありません。子どもにとってあまりに易しすぎたり、興味・関心が持てなかったりする英文では、モティベーション維持にもマイナス効果です(村野井,2006)。

とはいえ、「難しすぎず、簡単すぎず」のラインを見極めながら親御さんが自らベストな教材をゼロベースで選ぶのは、なかなかハードルが高いと思います。
その際の参考にしていただけるよう、これ以降の連載では、教材・書籍・WEBサイト・DVD・アプリケーションなど、各学習フェーズに応じたおすすめコンテンツを多数掲載していくことにします。

ぜひ最適な学習コンテンツを選んでいただき、「万人にとってベストな学習法」を「あなたのお子さんにとってベストな学習法」へとバージョンアップしてください

(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)

※注
記事中の参照文献・おすすめ教材などは、こちらのサポートページでご確認いただけます。
「世界最高の子ども英語」専用サポートページ
https://booksdiamond.wixsite.com/childenglish

【著者紹介】斉藤 淳(さいとう・じゅん)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく 問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。