執筆の原動力は「怒り」

 旧版が発行された1998年は、インターネットがようやく注目され始めたような時代である。その当時、中小企業を取り巻いている環境は、現在とは比較にならないほど厳しい状況にあったのだ。

 私の怒りとは、小さな会社に対する差別だ。当時は、ちょっとした広告にも100万円近くの予算が必要だった。マーケティングの本も、大手企業向けに書かれたものばかりであった。(「新版へのまえがき」より)

 「マーケティング」や「経営コンサルタント」といった言葉は、中小企業には縁遠く、ほとんどのコンサルタントや広告代理店は、大企業のほうばかりに顔を向けていた。34歳の若かりし神田青年は、その姿を目の当たりにし、怒りを原動力に、マーケティングの真実を明らかにしようとした。

 神田氏自身も語るように、現在では、広告代理店も広告効果の測定に力を入れるようになり、中小企業を救うために、実践手法を提供するコンサルタントも増えている。

 しかし、インターネットが普及もしていない14年前では、何が正しく、何が間違った情報なのか、それを判別すらつけることはできず、多くの中小企業が「金をドブに捨てた」のだ。

 私のクライアントがやろうとしたら、何が何でも止めさせる。そんな危険な橋を、若気の至りで、自分自身が渡っていたのである。(「新版へのまえがき」より)

 今ではこう振り返るように、マーケティングの教科書に書かれている理論を振りかざし、何も知らない中小企業店主を手玉にとる企業が許せぬあまり、口にしてはいけないとされていたことを、「マーケティング常識11のウソ」として暴露してしまった。

 さらに、何百万も宣伝費をかけず、小予算でも抜群の効果を発揮する「ダイレクト・レスポンス・マーケティングという手法を日本に紹介したことで、本書を読んだ数多くの中小企業を救うこととなり、やがてそれがマーケティングの「常識」となったのである。