失われた20年と呼ばれる日本経済。そんな長い停滞のなか、ビジネスマンたちは、がむしゃらに、そしてひたむきに日々の仕事・生活を支えてきましたが、さまざまなストレスに耐えてきたカラダもそろそろ注意信号を出す頃ではないでしょうか。本連載では、ダイヤモンド・オンラインの人気連載「働き盛りのビジネスマンを襲う 本当に怖い病気」の著者である市川純子氏が、そんなビジネスマンのいろんな悩みと不調を少し悲しく、少しおかしく紹介していきます。

メーカーからベンチャーへヘッドハントされた
IT企業技術開発部長Eさん(40歳)

月曜の朝が憂鬱

 月曜日の朝は、起きた時から気が重い。そして胃が熱い。何も食べないと調子が悪いので、妻に頼んで柔らか目のご飯を炊いてもらっている。食べると胃の痛みは少し落ち着くが、会社に近づくにつれ少しずつまた痛み出す。

 ガラス張りの広いオフィスは、温室のようだ。オフィスの家具は、すべて白。イタリアの有名ブランドで統一したらしいが、その白さがまぶしくてつい目を細めてしまう。

 月曜の朝は、全社朝礼ではじまる。そこにいる社員は、入館証を首からかけていなければ、休日の代々木公園に遊びに来た若者の集団にしか見えない。派手なノースリーブのワンピースにロングブーツという季節感のないファッションの女性社員。男性社員のほとんどはジーパン。スーツ姿の自分が浮いて見えるんじゃないかといつも気になってしまう。

「やったね。目標達成」。会議や朝礼が社長のこんなトーンではじまるのも日常茶飯事。朝礼の最後は毎回優秀な社員を社長が表彰する社長表彰だ。名前を呼ばれた社員は周囲のスタッフと「イェーイ」ハイタッチしながら前に進む。目録が渡されると拍手と大歓声に包まれる。この盛り上がり方は普通じゃない。「他のベンチャー企業もそうなのだろうか?」といつも自問自答するが答えはでない。

 Eさんは、自分の部下が表彰される姿を会議室の片隅からみつめながら、でもこの活気が成長の秘訣かもしれないと思っていた。

ヘッドハンティング会社から突然の連絡

 Eさんにヘッドハンティング会社から電話がかかってきたのは、去年の仕事納めの夜だ。仕事が終わった解放感よりも、明日からの自宅の大掃除の段取りを考え、せわしない気持ちで家路を急いでいた。

「家事男子」や「カジメン」なんて世間で言われ出す前からEさんは家事をこなしてきた。特に毎年の大掃除はEさんの仕事だ。

 そんなときに仕事用の携帯が鳴った。

「はじめまして。私は人材紹介会社の者です。Eさんにご興味のある会社があるのですが、一度お会いできませんか?」