iRobot(アイロボット)という企業に馴染みはなくても、「ルンバ」という自動掃除機については耳にしたことがおありだろう。

 この大不況でアメリカの産業界には暗いニュースが蔓延しているが、アイロボットは昨年末『フォーブス』誌で「急成長を遂げる25 社」にリストアップされ、投資家からも注目を集めている存在だ。

 アイロボットは、先端テクノロジーを消費者向け製品に作り上げて成功するという、典型的なアメリカン・ドリームの体現者である。1990年に創設された当時は、アメリカ軍用の戦場ロボットの開発が中心だったが、その後20年近くを経て、人工知能やセンサー、機械工学などの多様な技術を組み合わせ、普通の家で使えるようなお役立ちロボットを消費者に広く浸透させているのだ。

 昨年末までの時点で、自動掃除機ルンバを購入したのは300万世帯。10世代を超えるバージョンアップを繰り返して、現在はじゅうたんに絡みついたペットの毛すら見逃さず吸い取る強力な「562モデル」を399.99ドルという価格で売り出している。

 アイロボットを創設したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身の3人だ。一人は、ロボット研究者として世界的に知られるロドニー・ブルックス、あと2人はブルックスの教え子であり、現在CEO を務めるコリン・アングルは、創業当時は20代前半という若さだった。アイロボットはアングルが修士課程で開発した6つ足の自動歩行ロボットの技術をベースに、設立された会社だ。

 アイロボットはDARPA(米国防総省高等研究計画局)の補助金などを受けた軍事ロボット開発ではよく知られる存在である。アフガニスタン、イラク両戦争でも、同社が開発した探偵ロボット「パックロボット」が多数採用されている。階段などの段差を上っていくロボット、海底探索ロボットなど、多様な技術力を持つ。

 その同社が世に出した家庭用自動掃除機ロボット「ルンバ」は、ロボット開発の方向性だけなく、家電業界そのものを大きく変革させるものになりそうだ。

 ルンバが画期的なのは、ユーザーが何もプログラムする必要なしに勝手に部屋のかたちや障害物を感知して掃除をすることである。直径35センチ足らず、高さ10センチほどの円盤型のルンバは、まず部屋を動き回って広さや障害物、掃除にかかる時間などを自身で感知して記憶し、そこからなめるように床の掃除にとりかかる。テーブルの足、階段の段差、じゅうたん敷きと床の変化、ラグのフリンジ(房)などをたくみに避けながら進み、最後には充電器まで自分で戻って作業を完了する。