第2次世界大戦後の混乱が一段落して日本が国際連合に加盟した1956年度から、バブル経済のピークとされる1990年度まで、日本の実質GDP成長率は、年率で6.7%(単純平均)の伸びを示した。前半の17年がいわゆる高度成長期で、年率9.1%の伸び、後半の17年が安定成長期と言われているが、それでも年率で4.2%の伸びを示している。

 これに対して、「失われた20年」と呼ばれることの多いバブル後の91年度から2010年度までの実質GDP成長率は、わずか0.9%でしかない。わが国の経済は、数字から見れば明らかに低成長期に入っている。それにもかかわらず、人々の意識や経済運営の基本的な枠組みは、高度成長期のそれと大きく変わっていないのではないか。このギャップが、わが国の抱えているさまざまな課題の背景に大きく横たわっていると思われる。

2012年度は、極論すれば高成長ではないか

 日本経済新聞の新年恒例の経営者アンケートによると(2012年1月3日)、2012年度のわが国の実質GDP成長率は平均1.8%程度と見込まれている。「経済は回復過程にあるが、その足取りは緩やか」といった経営者のコメントがほぼ一様に掲載されている。

 しかし、この20年間の平均が0.9%であったことを考えれば、その倍に当たる1.8%成長は、極論すれば高成長と言ってもいいのではないか。こうしたコメントの背景には、「わが国経済の常態は、90年度までの6.7%成長、悪くても安定成長期の4.2%成長」といった高度成長期の常識が脳裏に残っているからではないか。

 そう言えば、私たちが日ごろ無意識的に使っている「不況」や「不景気」という言葉の裏にも、こうした高度成長期の残影が刷り込まれているのではないか。つまり、何を基準として、「不況」や「不景気」という言葉を使っているのか、ということだ。

 むしろ、これからのわが国の経済社会を考えるうえでは、この20年間の実績値である0.9%成長をベースとして(すなわち、0.9%成長をわが国の常態として)、虚心坦懐に物事を考えていく必要があるのではないか。なお誤解のないように付言すれば、筆者は成長論者である。