欧州時間の1月13日、米格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が、最上級のトリプルAの格付けを持つフランスなど欧州9ヵ国の一斉格下げを発表した。欧州債務危機に対するユーロ圏の取り組みが不十分、との理由からだ。そこに追い打ちをかけるように深刻な事態が持ち上がっている。ギリシャ危機の再燃だ。

 債券市場の反応は拍子抜けするほど冷静だった。

 欧州9ヵ国の一斉格下げで、波乱が予想されていた週明けの市場だったが、ふたを開けてみれば、今回2段階格下げされたスペイン国債、最上級のトリプルAからダブルA(+)に格下げされたEFSF(欧州金融安定化基金)債共に需要は堅調で、目標どおりに資金を調達した。

 12月時点でS&Pはユーロ圏15ヵ国の格付け見直しを表明しており、「マーケットは格下げを織り込みずみ」(中空麻奈・BNPパリバ証券クレジット調査部長)という見方どおりの展開となった。

 今回の格下げで最も懸念されていたのは、ユーロ圏の財政危機国支援のために設立されたEFSFの融資能力が低下することだった。EFSFは、トリプルA格を持つドイツ、フランス、オーストリア、オランダ、フィンランド、ルクセンブルクの6ヵ国の政府保証に裏打ちされている。今回、フランスとオーストリアが格下げされたことで、4400億ユーロあった融資能力は両国の政府保証分減少し、2700億ユーロまで低下した。

 ただし、これはあくまでEFSF債をトリプルAの格付けをつけて発行する場合であり、ダブルA(+)で発行するのであれば、融資能力は4400億ユーロのまま変わらない。先述したように格下げ後の資金調達は順調にこなしており、融資能力の低下という最悪の事態は回避された。

 格下げの当座の影響は限定的だが、長期的にはボディブローのように効いてくる。「ユーロ圏に積極的に投資する理由がなくなる。慎重にならざるをえない」(櫻井祐記・富国生命投資顧問社長)。

 事実、投資マネーは日本国債や米国債に向かっており、長期的に見れば資金調達コストの上昇は避けられないだろう。

ギリシャ危機が再燃し、ユーロは窮地に追い込まれている。ギリシャのパパデモス首相に残された時間は少ない
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債務整理のカギ握る
ECBの交渉参加

 ギリシャ政府と民間債権者の債務減免交渉が中断──。

 格下げが発表された13日、もう一つの衝撃的なニュースが欧州を震撼させた。民間債務の減免によるギリシャの債務整理は、同国への金融支援の前提となっている。もしも交渉が決裂するようなことがあればギリシャはデフォルト(債務不履行)に陥る。そうなれば、財政不安を抱えるイタリアやスペインの国債も急落し、欧州はもちろん、世界に危機が波及する。