おでんは日本全国で食べられている、まさに国民食といってもよい大衆料理の代表格だろう。ただ、一口におでんといっても、全国比べてみると、具材が地域によって様々に異なる。出汁もそれぞれで、ある意味、郷土色が出やすい料理ともいえる。この連載でも、第2回でテビチ(豚足)を沖縄のおでんの代表的な具材として、紹介している。
そんなおでんだが、全国でも他になかなか類をみない、特徴的なおでんがある。静岡県は静岡市を中心に食べられている「静岡おでん」だ。
東京ではなかなかお目にかかれない、その静岡おでんを、下北沢で提供している店があり、静岡市の出身者を懐かしがらせているという。
演劇が好きな人にとってはお馴染みの、『本多劇場』のすぐ前、『「劇」小劇場』の並びのビルの2階にその店はあった。黒いネオンに白文字で大きく『しずおか屋』と書いてある。静岡出身者なら、必ず目に止めるであろう。
ビルの外階段を上がり、店内を見渡すと、テーブルとカウンターがあり、そのカウンターの横にはしっかりと、長方形で、細かく仕切りがついたおでん鍋が鎮座していた。
「おお! 噂のとおり、『黒い』なぁ。真っ黒だ!!」
おでん鍋のダシ汁は本当に真っ黒である。そして、全ての具材に串が刺されて、ダシ汁の中にギッシリと詰めこまれている。聞くとセルフサービスだそうで、自分で好きな具材を取って、最後に串の本数で勘定するとのことだ。串で数えるのは、静岡にあるお店でもオーソドックスな方式だそうだ。
「串で勘定するのはいいねぇ。なんていうか気が楽で」
静岡市出身の女将、冨田さんに伺ったところ、静岡では駄菓子屋におでんがあり、子供の頃から学校帰りなどに、おでんを食べていたという。また、夏の海水浴場では海の家でもおでんがあり、一年中食べていたそうだ。まさに静岡のソウル・フードといえるだろう。