私が推奨しているのがChief Customer Experience Officer(最高来店体験責任者)のポジションを設けることです。その人が店全体における「来店体験」の責任者になるのです。その内容は他社に相談するのではなく、自社で開発する。自分たちはどういうブランドなのか。お客さまのどういう問題を解決したいのか。生活の基本的なニーズを満たすのか、もっと発達したニーズを満たすのかということです。

 もうひとつ重要なのは、実現のための「プロセス」です。小売業が商品を調達し消費者に届けるための「プロセス」は効率的かつ余計なコストがかかってはいけません。しかし小売業は過去の手法にこだわる場合が多く、「うちは常にこうしているから」が口癖になっています。こうした体質から脱却していかねばなりません。

──日本で新たなビジネスモデルを構築しようと努力している小売企業はありますか?

ブライアン 日本の小売業の最新事情には詳しくないので言及を避けますが、トヨタ自動車は「イノベーション」という部分で注目しています。現在、小売業には「イノベーション」が求められているからです。

 『ライフサイクル・イノベーション』を執筆したジェフリー・ムーアは、著作『キャズム』で「イノベーション」の法則を紹介しています。

 企業は新たなアイデアをいくつか生み出すとそれらを実験し、よければ世に送り出します。いい物は必ず競合に真似されるので、真似されたら最適化を行い、超効率化して儲けを貯め、新たなアイデアに投資しなければいけません。

 いい物を世に送り出せばそれがミッション・クリティカル(基幹事業)になりますが、真似されればミッション・クリティカルではなくなるし、他社との差別化も図れなくなるわけです。

 トヨタを例にとれば、同社が新たなデザインの新たな機能を搭載した車を開発したとします。それが発売され人気が出ると、日産とホンダも真似をする。そうなればトヨタはコストを極力抑えて、次のアイデアに投資します。そして、もしこうした「イノベーション」のサイクルが自動車業界で行われていなければ、われわれは今でも1960年代にあったような車に乗っているかもしれないのです。

 同じことは、小売業にも当てはまります。小売業は「イノベーション」を得意とはしていませんが、今は消費者行動の変化するスピードが速くなっており、逆に小売業に変革を求めるようになっています。したがって、小売業もその変化に対応しなければならないでしょう。

 いずれにしても、今の段階では、小売業界において、誰が次世代の勝者となるのかはまだわかりません。古いモデル(ユニチャネル)から新しいモデル(オムニチャネル)にどう移行していくか。ビジネス・インテリジェンスを活用し、リアルタイムで対応できる事業を構築しなければならないでしょう。

 日本の消費者はどこの国よりも早くスマートデバイスや新しい技術を使いこなしています。しかし問題は、小売業者がそうしたモバイルを活用して消費者を取り込む方法を開発できているか、ということに尽きます。

 そして、消費者は今後、こうした技術をどんどん利用するでしょう。たとえば日本では携帯で電車の路線図を見てどこの駅で降りるかを調べることができます。

 小売業もこうした技術を使い、消費者に買物させることができるかを考えてみたいところです。

「チェーンストアエイジ」1月15日号 好評発売中!

スマートフォンやソーシャルメディアなどの新しいデジタルツールの利用した消費行動が急速に拡大しています。
消費者の新しい行動によって、小売業は業務プロセスやそれらを支えているシステムを見直す必要が出てきています。デジタルツールを利用する消費者によってつくりだされる新たな課題に、小売業はどのように対応していくべきなのでしょうか。
米国大手ドラッグストアの上席副社長および最高情報責任者を経て、現在、市場調査会社のリテール・システムズ・リサーチのマネージング・パートナーを務めるブライアン・キルコース氏に聞きました。
ぜひご一読くださいませ。
小売・サービス・流通業界がわかるビジネス情報サイト DFオンライン