ひとつその実例を見てみましょう。法律的には判例と言われるものです。

「遺言者の押印を欠く自筆遺言証書が有効とされた事例」
英文の自筆遺言証書に遺言者の署名が存するが押印を欠く場合において、同人が遺言書作成の約1年9ヵ月前に日本に帰化した白系ロシア人であり、約40年間日本に居住していたが、主としてロシア語又は英語を使用し、日本語はかたことを話すにすぎず、交際相手は少数の日本人を除いてヨーロッパ人に限られ、日常の生活もまたヨーロッパの様式に従い、印章を使用するのは官庁に提出する書類等特に先方から押印を要求されるものに限られていた等原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、右遺言書は有効と解すべきである。

 事件番号 昭和48(オ)1074
 事件名 遺言書真否確認等請求
 裁判年月日 昭和49年12月24日
 法廷名 最高裁判所第三小法廷
 参照法条 民法960条、民法967条、民法968条(裁判所ホームページより引用)

 この判例はもともと「遺言者の署名はあるが、押印がない」ことが論点です。印鑑(印章)ではなく、サインを常用している外国人が作成した遺言書に押印がなかった場合の有効性が争点となっていました。

 しかし同時に、「英文で書かれた自筆遺言証書の有効性」も立証しうる最高裁判所判決となっています。

 このように、遺言をいろいろな角度から見てみると、日本の遺言制度はとても柔軟でよい制度だとわかるのです。