医師は負け組にならない職業?
過熱する人気の陰でひずみも
今、医学部を目指す若者が増えている。以前から、地元高校エリートの有力な進学先だった国公立大学の医学部に加え、近年、学費だけで数千万円単位のカネがかかる私立大学医学部を志望する生徒も右肩上がり。その数は、この四半世紀で3倍以上、総志願者数は7万9836人(延べ人数)にふくらんだ
なんといっても医師は、“負け組にならない”職業だ。
景気の長期低迷が続き、多くの企業で給与カット、雇用削減が実施され、かつての一流企業でさえ消えていった。だが、医師は今もステータスやトップクラスの給与水準を維持している数少ない職業の筆頭に挙げられる。職種別の平均年収では、弁護士に続く1141万円だ。
しかも、医療の市場は拡大している。バブル崩壊以降、GDP(国内総生産)が伸び悩む一方、国民医療費は右肩上がりが続いている。2009年度の国民医療費は前年度プラス3.4%で36兆円を記録した。
過熱する医師人気の陰でひずみも生じている。
医学部に生徒が合格すれば、高校や予備校の評判が高まるとあって、本来、医師志望ではなかった“できる生徒”に医学部を勧めるようになった。
本来、医師は高い志やコミュニケーション能力が要求される職業だ。だが、偏差値偏重の今の制度では、協調性や思いやりに欠ける生徒も入学してくる。
こうした人びとは、チームワークが要求される医療の現場には不向きだ。研修医が手術の途中で「終業時間だから」と、帰ってしまった例もある。ある研修医の受け入れ病院では、面接に精神科の医師も同席して「人物」の判定を行っているという。