製薬会社シェリング・プラウの再建に乗り出したフレッド・ハッサンは経営再建の定石「コスト・カット」ではなく売上げの回復から改革の口火を切った。売上げの回復が、他のプロジェクトの資金やリード・タイムを確保し企業価値の長期的な向上に貢献するというのが、彼の信条であるからだ。
そのためには、営業力を高めることが必須である。再建中の営業組織は、企業の内部や顧客、取引先から寄せられる風評で士気が低下し、合わせて成績向上の糸口もつかめない。これを改善するには、トップ・マネジメントのコミットメントが不可欠だ。シェリング・プラウがいかに営業力を高めていったのか、営業担当者の士気を上げ、顧客の信頼を獲得する営業力について聞く。
企業再生は営業力の強化から始まる
再建を請け負うCEOは、たいていコストにメスを入れる。日産自動車のカルロス・ゴーンは、フランスのマスコミに「ル・コスト・キレール」(コスト・カッター)と呼ばれた。タイコ・インターナショナルのエドワード・ブリーン、医療保険会社エトナのジャック・ローと聞けば、レイオフのイメージが浮かんでくる。またJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンは、情け容赦ないコスト削減で有名である。
Fred Hassan
シェリング・プラウ 会長兼CEO。ロンドン大学インペリアル・カレッジで化学工学を修めた後、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。1978年にサンド・ファーマシューティカルズ(現ノバルティス)に入社し、17年間、同社アメリカ法人社長を務める。その後、ワイス(旧アメリカン・ホーム・プロダクツ)の取締役副社長、97年5月、ファルマシア・アンド・アップジョンのCEOとして経営に参画。2001年2月にファルマシアの会長となる。2003年4月より現職。また、エイボン・プロダクツの社外取締役でもある。
【聞き手】
トーマス A.スチュワート
Thomas A. Stewart
HBR編集長
デイビッド・チャンピオン
David Champion
HBR シニア・エディター
しかし世界的な製薬会社、シェリング・プラウ会長兼CEOのフレッド・ハッサン(当時)は、売上げを回復させることで再建を推し進める。彼の改革は、これまですべて営業力の強化から始まっている。これには、彼の職業遍歴が大きく関係している。
彼のキャリアは肥料の営業から始まった。彼はパキスタン生まれで、父親は外交官、母親は女性解放運動の草分けであった。その穏やかな口調と控えめな人柄は、とても営業には似つかわしくなかった。
しかし、彼がこれまで成功を重ねてこれたのは、この営業の経験があったからこそである。97年、不振にあえぐ巨大製薬会社、ファルマシア・アンド・アップジョン(P&U)のCEOに就任して以来、たえず営業職に理解ある経営者として知られている。
ハッサンは、まさしくチャレンジャーである。彼は、2000年にP&Uとモンサントの合併を成立させ、この新会社ファルマシアを軌道に乗せた。2003年、ファイザーが600億ドルで同社を買収するまで、その舵を取ってきた。その次には、迷走するシェリング・プラウの再建請負人としてCEOに就任した。それから3年、彼の指揮の下、シェリング・プラウの業績はあらゆる分野で改善し、目覚ましい回復を遂げた。