親の介護と仕事を天秤にかけない
この2つのストーリーは、起きないのがいちばんいいです。しかし、もし起きてしまったとしても、いまのみなさんは冷静に考えられるはずです。
介護においてはまず、どんな選択肢があるかを知ることが大切です。とにかく専門家に相談して情報を集めましょう。ソーシャルワーカーや地域包括支援センターに一度でも相談してみるとわかりますが、いまは介護サービスのメニューもたくさんあるし、いろいろなサービスを組み合わせれば、実家で認知症の親がひとり暮らしを続けることも不可能ではありません。
困ったときは地域包括支援センターに電話する。まずは、このことを覚えておいてください。
同じくらい大事なのは、「自分で面倒を見るしかない」と絶対に思い込まないことです。自分で面倒を見るしかないと思い込む理由は人それぞれあります。「子どもが親の面倒を見るのは当然だ」「親の世話を他人に任せるなんて世間体が悪い」「この先何年続くかわからないのでお金の心配がある」……。
しかし、どんなに厳しい状況でも、選択肢は常にあるものです。親のおむつを自分で替える、入浴の介助を自分でやるといった選択肢がある一方で、介護のプロに任せるという選択肢もあるのです。
だから絶対に、自分の仕事と、親孝行としての介護を、天秤にかけないでください。
みなさん、この2つを天秤にかけたら、どうしたって「親の介護」をとってしまいます。でも、そもそもこの2つは天秤にかける必要はまったくなくて、両方ともとることができます。
「介護のために仕事を辞めない」、最初にそう決心することで、「自分でやる」以外の選択肢がみえてくる。それが介護によって親を、そしてあなた自身を追い込まないための、確実な方法なのです。
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。ミッションは「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」こと。年間講演回数は40回、個別相談数は80件を超え、顧問先は現在6社。「NHKラジオ深夜便」、「ワイドスクランブル」(テレ朝)、「教訓のススメ」(フジテレビ)などに介護の専門家として出演実績あり。誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指し日々奮闘中。