Rule3
ジョブズのスピーチは究極にわかりやすい

 もう少し例を挙げていきましょう。
 スティーブ・ジョブズ氏によるスタンフォード大学卒業式での有名なスピーチも「シンプルな英語」の好例です。約15分のスピーチは、シンプルなメッセージ、論理、表現で構成されています。

Today I want to tell you three stories from my life. That’s it. No big deal. Just three stories.
(今日は、私の人生から3つの話をしたいと思います。ただ、それだけです。大げさなことではありません。わずか3つの話をするだけです。)
〈中略〉
The first story is about connecting the dots.
(最初の話は、点のつながりについてです。)
〈中略〉
My second story is about love and loss.
(2つ目の話は、愛と喪失についてです。)
〈中略〉
My third story is about death.
(3つ目の話は、死についてです。)

 まずジョブズ氏は冒頭で「人生の学びを3つ伝えることが本日の目的である」と伝えています。これが「明確な結論」です。本来は、どのような3つの学びなのかを冒頭で伝えることが結論の明確さを生み出しますが、ここではあえて聴き手を引き込むために具体的な内容を伝えていません。それでも「今日の目的は3つの話をすることだ」という言葉から始めることで、わかりやすさが生まれます。
 同時にその話が3部構成であることを伝えています。ここでも、論理構成が明確に提示されています。そして、その後のスピーチの中で、論理構成を理解するための助けとして、各部の冒頭に「first(第一に)」「second(第二に)」「third(第三に)」と目印となる言葉を加えています。これにより論理構成が一層わかりやすくなっています。
 そこで使われている英単語は「connecting the dots(点のつながり)」「love and loss(愛と喪失)」「death(死)」という簡単なものです。
 ジョブズ氏のスピーチには、ゴーン氏の受け答えとの共通点があります。つまり、(1)結論が明確にあり、(2)論理構成がストレートで、(3)簡単な言葉を使っている、ということです。
 卒業式という晴れの場で、15分のスピーチを聴く側は、じっとしていられないものです。だからこそ、「シンプルに伝える英語」が徹底されているともいえるでしょう。そして、これらが、私たちノンネイティブスピーカーが目指すべき英語のゴールなのです。

ジャック・ウェルチの英語は「表現」が簡単

 もうひとり、米ゼネラル・エレクトリック社の元会長であり、名経営者として知られるジャック・ウェルチ氏の英語を取り上げましょう。以下は、CNNのインタビューで中国の台頭について聴かれた際の受け答えです。

CNN質問者
Do they scare you or excite you, the Chinese?
(中国人に対して、恐れを感じますか、それとも、気持ちが高ぶりますか?)

ジャック・ウェルチ氏
Excite me!
(気持ちが高ぶりますよ!)
They’re huge! A billion, 300 million people.
(巨大ですね! 人口が13億人です。)
All I see are consumers. All I see here is opportunity.
(彼らは皆、消費者です。チャンスだらけです。)

 ウェルチ氏は中国について聞かれて、即座に「Excite me!(気持ちが高ぶりますよ!)」と答えます。質問が終わる前に、聞き手をさえぎるような間髪入れない受け答えです。そして、その理由として「huge(巨大)」と述べています。
 さらに、巨大な市場を支える具体例として、13億人の人口が存在しそれらの人々がすべて消費者だ、と持論を展開しています。
 そして最後に、再度自分の結論である「excite me(気持ちが高ぶる)を「opportunity(機会)」という語で言い換え、結論、根拠、結論というサンドイッチ構造で端的に答えています。

 際立っているのは、やはり結論の明確さです。scare you(恐れを感じさせる)か、excite you(気持ちを高ぶらせる)か。別の言い方をすれば、threat(脅威)かopportunity(機会)かと言えば、opportunity(機会)という明確な意見です。
 そして、シンプルな論理を展開していきます。「なぜかといえば、市場が大きいから」「具体的には、巨大な人口を有しているから」。さらに、ここで使っている英単語は、excite、huge、consumers、opportunityだけです。なんと簡単な英語でしょう。
 一方、日本人は結論を明確にしないまま話し始める傾向にあります。日本語で表現するならこんな感じでしょうか。
「うーん、中国ですか……。難しいですよね。確かに、経済規模は大きいですけどね。政治体制が不透明でしょう。共産党の一極体制だし、今後どうなるのでしょうね。日中関係も不透明だし。反日感情もあるでしょうから。日本企業は参入していても、結構苦労しているようですよね……」
 これでは、何が言いたいのかわかりません。結論がないために、それを支える論理もない。伝える内容がないから、英語を長く話すことが目的になる。結果、簡単な表現を選ぶ視点も欠如していきます。
 まず、「伝えるべき結論、メッセージは何か」、次に「それを支える根拠は何か」「結論と根拠を伝えるのに適した簡単な単語は何か」の順で考えましょう。

point 「私が言いたいのは〇〇だ」とシンプルに伝えよう