ふらここ社長 原 英洋
Photo by Toshiaki Usami

 3月3日の桃の節句に、女の子の健やかな成長を願って飾る雛人形。口コミで火がつき、ネット直販だけで毎年完売する雛人形が、“赤ちゃんの顔”をコンセプトにした「ふらここ」だ。

 人形の企画からデザイン、販売まで手がける社長の原英洋は、“雛人形業界の異端児”としても注目されている。

 原の祖父は人間国宝の人形師で、赤ちゃん顔人形の作案者。原は生まれたときから祖父の人形づくりのモデルだった。人形に囲まれて育ち、自然と「いつか自分も人形を作りたい」と考えるようになる。

 大学卒業後、小説好きが高じて一度は出版社に就職したものの、父が急死。祖父の技術を継承した母が人形づくりを、原が販売を手がけ、20年間、工房と店を切り盛りしてきた。

 だが原はあるジレンマを抱えていた。「こんな人形が欲しい」という客や販売側の声が、なかなか商品に反映されないのだ。

 雛人形業界は顔、胴体、小道具など各パーツを作る工房(職人)が、毎年問屋が開く新作展示会に製品を出展。小売りがそれぞれのパーツを買い付け、自由に組み合わせて客に販売する。商流が完全に分かれ、かつ一方通行のため、小売りは「販売テクニックで売る」というスタイルになりがちだ。

 かつ、客も買いなれない商品なので知識がなく、販売員に言われるがまま購入を決めてしまう。定価はあってないようなもので、同じ店舗の同じ商品でも客によって値引きに差がつく場合さえある。

 少子高齢化に加え雛人形を飾る家庭自体が減っており、商売の環境は年々厳しさを増している。にもかかわらず、業界は「伝統産業」の名の下に、客が本当に欲しいものを開発したり、適正な価格で売るような変化が見られない。

「飾らないので返品を」
若夫婦の電話で時代の変化を痛感

「このままでは時代に取り残されてしまう」。原が痛感したのが若夫婦からの電話だった。聞けば娘の初節句に両親から贈られた雛人形を返品したいという。説得を重ねたが、「飾りたくないものを贈られても困る」と言うばかり。以降、同様の電話がぽつぽつと続くようになった。