アニメと政治は別もの?
「アニメ好き=親日」の勘違い

 一方、彼女のような「アニメ好きの外国人」というと、来日外国人のテンプレのようにも思えるが、鄭さんいわく「普通はアニメが好きだから日本に住もう、という発想にはならない」という。実際、鄭さんも留学したのは、日本語学校で日本語を習っていたという条件があったからで、そのまま日本に住み続けたのも、大学の研究が面白かったからだ。

 第一、わざわざ日本に来なくともアニメやマンガは自国で楽しむことができる。それどころか、「オタクを名乗るなら、日本より中国のほうが生きやすい面もある」と鄭さんは言う。

「日本だと、オタクは地味というか、ひどいと犯罪者予備軍みたいに言う人もいますよね。中国では、少なくとも私たちの世代までは、豊かでオシャレな国という理想郷としての日本の印象が強かったから、アニメやマンガもファッショナブルなものとして捉えられていました。オタクもBL好きも、外国のサブカルチャーに精通している個性的な人ぐらいの立ち位置だったと思います」

 さらに、中国では、コスプレ大会やオフ会なども頻繁に開かれているそうだ。コンテンツを鑑賞するのも、同じ趣味の人同士の集まりも、すべて中国国内で完結させることができるのだ。

「私のようなグッズ厨からすると日本は優しい街ですが、中国には中国人オタクに合った市場やコミュニティが成立しているのかもしれません」

 また、クールジャパン戦略の主要コンテンツとしてアニメは各国に積極的に輸出されているが、それが現実の政治や経済に直接的な影響を与えられるか言えば、それも懐疑的だという。

「アニメは国境を超える、世界をつなぐ、なんてよく聞きますけど、オタク歴15年の私からしたら、そんな単純な話があってたまるかって思いますね。たとえば、中国人のオタクの中には、第二次世界大戦をモチーフにした作品でも、アニメならすんなり楽しめるという人は多い。でも、それで現実の日本に対する歴史観や印象が良くなるとは限らない。日本のコンテンツが、歴史や政治とは別のフィールドで、世界で支持され、浸透していった背景には別の複雑な構造があるのではないでしょうか」
 
「アニメ、マンガ好きのotaku」は、親日外国人としては非常に分かりやすいパターンだ。だが現実は、アニメが好きだから日本に来るとは限らないし、もっと言うならアニメを好きになれば日本が好きになるとも言い切れない。

 ソフトパワー戦略の一環として、経済政策にも組み込まれている日本のアニメやマンガ。だが、それらを売り込んだところで、各国でどう受け入れられ、具体的にどのような形で影響を及ぼすのか、そこまで議論はなされているのだろうか。