特定の人に頼る支援は
長い目で見ればマイナスになる

 先輩医師が私に伝えたかったことはこういうことだと思います。

 A医師が自分なりのやり方やノウハウを確立し、それを後輩に伝えて仕組み化する。それによってA医師がいなくても同じような治療が再現できます。ところが「神業」「神の手」といった領域に入り、その人しか実践することができない職人芸で医療が成り立ってしまうと、それらの治療を受けることのできない患者さんにとって残酷なことになるのではないか。

 私は、先輩医師の言葉に納得しました。もちろんレベルが低ければ困りますが、担当の医師が不在でも「違う先生で構いませんよ」と患者さんに言ってもらえる医療の価値を再認識するようになりました。そのような仕組みは、本当は患者さんにとって親切な医療なのではないかと悟ったのです。

 福祉活動や支援活動も、医療の世界に似ています。

 いつまでもいてほしいと言われる人の存在はいつの時代も貴重です。しかしその人がいなくなったら活動が滞ってしまう、そのチームが引き上げたら地域が立ち行かなくなってしまうというのは、良い支援とは言えないと思います。

 支援者がその地にとどまり、将来にわたって長く継続支援をするケースもあると思います。それでも、1人の人間が100年にわたって支援活動を継続するのは困難です。だとすれば、継続的に支援する仕組みを作り上げるほうが、より効果的で支援を受ける側のためになるのは間違いないことだと思います。