試合中のマウンドで僕が最も心掛けていることは、言うまでもなく「いかにして、その回の相手の攻撃を0点に抑えるか」である。「目の前のバッターを打ち取り、アウトを積み重ねること」が基本なのは間違いない。しかし、試合の状況次第では、その考え方だけでは乗り切れない場面が出てくることがある。

 たとえば、1点を争う試合で、2アウト・ランナー三塁のピンチを迎えた場合。3アウトチェンジになるまでの、あと一つのアウトをどうやって奪うか……僕は打席に立つ「目の前のバッター」だけではなく、ネクストバッターズサークルに控える「次のバッター」のことも考慮している。

 目の前のバッターと次のバッターの個人的な能力差。その日の調子。過去の対戦データに基づく自分との相性。それらを総合的に見たうえで、どうすれば「残り一つのアウトを奪える確率」が高くなるのかを考えるわけだ。

 もし、目の前のバッターより、次のバッターからのほうがアウトを奪いやすいという結論に至れば、目の前のバッターとの対戦では「フォアボール」の選択肢も出てくるだろう。そうなると当然、キャッチャーの配球も変わってくる。

 とはいえ、最初から勝負を避けるわけではない。絶対に点を取られてはいけない場面なので、ストライクゾーンいっぱいの厳しいコースを突いていきながら、結果的に「ボール」が先行してフォアボールになるというケースも想定するのだ。

 一般に「フォアボールを出すピッチャーは悪い」という見方があるが、僕は一概にそうは思わない。もちろん、ストライクが入らない結果、バッターを一塁へ歩かせてしまうのは「悪いフォアボール」だ。しかし、「よいフォアボール」はないにしても、「やむを得ないフォアボール」はあると思う。

 上記の状況でも、目の前の打者をフォアボールで歩かせ、2アウト・一三塁になってから、次の打者を打ち取れば、相手を0点に抑えたことには変わりない。だとすれば、そのフォアボールにも意味があったと言えるのではないか。他にも、たとえば1アウト・二塁で強打者を迎えた場合で、そのバッターをフォアボールで歩かせて次のバッターをゲッツーに打ち取る、というパターンも考えられる。