実際の投球は、サインなどを通じたキャッチャーとの意思疎通のなかで決まっていくが、ただ単にサインどおりにピッチングしているわけではない。相手の攻撃を0点に抑えるための最善策は何か?……僕はつねにそれを意識しながらマウンドに立っている。そして、そのためには「目の前のバッターを打ち取り、アウトを積み重ねる」という基本だけでは十分ではないのだ。

チームが勝つために…リリーフピッチャーへの気遣い

 僕がピッチャーとして最優先するのは、相手の攻撃を0点に抑えること。しかし、ゲームの運び次第では、この原則すら変更を迫られることがある。つまり、「1点なら与えてもいい」と考えるような場面である。

ソフトバンク和田投手が明かす「マウンドで投手が考えていること」

 たとえば、3-0とリードした試合の終盤で、0アウト・二三塁のピンチを迎えたとしよう。ここで最悪のパターンは、次のバッターに3ランホームランを打たれて同点に追いつかれることだ。だから、こういうときは「なんとか1失点、最悪でも2失点で切り抜けよう」というふうに、考え方を切り替える。先ほど紹介した「やむを得ないフォアボール」にも通じる「やむを得ない1失点」である。

「最悪のパターンを避け、傷口を最小限にとどめる」という考え方は、他の場面にも通用する。2点リードした試合の終盤……たとえば7回に先頭バッターを歩かせ、次のバッターにヒットを打たれて、いきなり0アウト・一二塁のピンチに陥ったとしよう。こういう状況でも、ピッチャーとしての僕は「自分でピンチを切り抜けたい!」という気持ちを当然持っている。しかし、7回ともなれば、球数が100球を超えて、疲れが出はじめているかもしれない。だとすると、ベンチはピッチャー交代の準備を開始しているだろう。そんなときは「……もし交代になったとして、どんなかたちでリリーフピッチャーに引き継ぐのがベストだろうか?」というふうに、交代の可能性も念頭に置きながら、より慎重にピッチングを進めていくスタイルに切り替えるのだ。