あくまでも一般論だが、プロ野球のチームには、主にリードしている試合展開で登板するリリーフピッチャーがいる。いわゆる「勝利の方程式」と言われる継投策だ。

「7回時点でチームがリードしているなら、ブルペンでは勝ちパターンのリリーフが準備しているはず……。しかし、もし逆転を許したら、違うピッチャーが登板することになるかもしれない。よし、シングルのタイムリーヒットで1点差に迫られることがあっても、長打での同点だけは避けよう」――そう考えて、次のバッターとの対戦に臨むこともある。

ソフトバンク和田投手が明かす「マウンドで投手が考えていること」

 あるいは、こちらが1アウトも奪えないまま、イニング冒頭から投球が乱れてしまった場合、リリーフピッチャーのブルペンでの準備時間が不足することにもなりかねない。そうなると、チーム全体にとってもマイナスに作用してしまう。そこで、あえて牽制球を多くしたりして、ルールの範囲内で時間稼ぎをする場合もある。

 僕自身もピッチャーなので「自分で最後まで投げ切りたい!」という強い思いは、もちろん心の中に持っているし、どんなときも、「自分で3アウトを取り、相手の攻撃を0点に抑える」という気持ちは忘れていない。

しかし、チームにとっての至上命題は「試合に勝つこと」「負けないこと」である。そのためには、僕が1点を打たれることすらも、やはり選択肢の一つとして考えないわけにはいかないのだ。

考えることを諦めたくない

 このように僕は、マウンド上でいろいろと考えを巡らせている。繰り返しになるが、ほかのピッチャーも僕と同じように考えているのかはわからないし、若い世代のプレーヤーたちにこのスタイルを押しつける気はまったくない。ただ、僕がなぜそこまで粘り強く考えようとするかを振り返ると、根本には僕の負けず嫌いな性格が大きな役割を果たしているように思う。

 といっても、僕が言いたい「負けず嫌い」は、「目標とする選手やライバルに勝ちたい」という気持ちのことではない。自分も含めたすべてのことに、文字どおり「負けたくない」という意識。そのために「諦めたくない気持ち」と言い換えてもいいかもしれない。

 前回の連載では「マウンド上での緊張を解く」ための一つの思考法として「開き直る」という方法を紹介したが、これは「考えることを諦める」ということではない。「もう、どうとでもなれ!」と完全に開き直った精神状態で投球をするのは(僕の性格もあるのかもしれないが)かなり難しいだろう。考えること放棄したら、自分に負けてしまったように思えるからだ。