早く、軽く、繰り返して読む
「ええか。この人差し指の先をじっと見てみ」
立三さんは右手の人差し指で、鏡の中のオレの眉間を差した。
オレは言われたとおり、鏡の中の立三さんの人差し指を見つめた。
「今から動かすからじっとこの指先を追いかけるんやで」
立三さんはスーッと指先を右に動かした。
今度はスッと素早く左に動かした。
そして、スーッとセンターに持っていった。
そして、スッと素早く上に持っていき、今度は真下にスーッとゆっくり降ろした。
「目になんかストレス感じたやろ?」
「はい」
「同じこと、もう1回やるで」
立三さんは、さっきと同じ動作を繰り返した。
「どや、今度はストレス軽かったやろ」
「本当ですね」
「なんでか言うたらな、『こんな感じ』という全体像を一度つかんでたから、2度目には指の動きを予想できたんや」
「なるほど」
立三さんは、バーバーチェアに座りなおして言った。
「『競争の戦略』の親本ではなく、コンパクトにまとめた本があったやろ?」
「ありました」
「コンパクトということは、全体が圧縮されてるやろ」
「なるほど、そうですね」
「それを先に読んでから親本を読みたかったら読んでもいいが、目次だって全体の要素を圧縮してるから、目次をしっかり読んでから、本文を読んだらええんや」
「なるほど」
「序文やまえがきは『何が書いてあるか』をまとめているから、そこを先に読むのもいい。あとがきが役に立つこともある」
「はい」
「早く、軽く、少々理解できなくても、細部にこだわらず繰り返して読むのも『全体から部分』の動きやろ」
「言われてみれば、そうですね」
「だから、本を読む時は、いつも『全体から部分』を原則として付き合うんや。わかったか?」
「はい」