上司こそ「認められたい」

こんな相談を受けました。
『私の上司の伊藤さんは、企画書を提出しても「全然ダメ」と言うばかりで、具体的なアドバイスをくれません。何度直しても突き返されるばかりなので、

「何がダメなのか教えてください」

と言うと、「自分で考えろ!」と怒鳴られてしまいました。なんと伝えればよかったのでしょう?』

よくよく聞くと、その伊藤さん自身は、上司から仕事を教わったことがなく「仕事ぶりを見て覚えた」苦労人なのだそうです。つまり、「全然ダメ」と突き返すのは決して意地悪をしているのではなく、自分が上司にされたのと同じようにしているだけのこと。「自分はこれでできるようになった。部下だってできるはず」と思っているのです。

そういう人から具体的なアドバイスを求めるのは、なかなか難しいもの。上司の伊藤さんは「仕事は見て覚えるものだ」と確信しているので、いくら「仕事を教えてください」と言っても、「甘えるな」と思われるだけです。そんなときは、こう言ってみましょう。

○「伊藤さんのように仕事ができるようになりたいんです。この企画書における、伊藤さんの視点を教えていただけませんか?」

これは、「認められたい欲」という伝え方の技術を使っています。
人は認められると、嬉しくて相手の期待に応えようとするものです。「伊藤さんのようになりたい」と言われれば、つい嬉しくなって「教えてもいいかな」と思いやすいのです。

この「認められたい欲」は、上司にお願い事をするときに、とても有効です。なぜなら、上司は普段、部下から認められることがほとんどないから。偉くなればなるほど、「部下から尊敬されているだろうか」「慕われているだろうか」と不安を感じているものなのです。

だからこそ、部下の側から上司を認める言葉で伝えると、上司の心は動きやすくなります。そして、認めてくれる部下に好感を持つようにもなります。

「認められたい欲」というと、上司から部下に使うものと思われるかもしれませんが、逆に上司に対して意識的に「認められたい欲」を使うと、「イエス」を引き出せるだけではなく、関係性まで良くすることができますよ。

佐々木圭一(ささき・けいいち)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師 上智大学大学院を卒業後、97年大手広告会社に入社。後に伝説のクリエーター、リー・クロウのもと米国で2年間インターナショナルな仕事に従事。日本人初、米国の広告賞One Show Designでゴールド賞を獲得(Mr.Children)。カンヌ国際クリエイティブアワードでゴールド賞他計6つ獲得、など国内外55のアワードを入賞受賞。福岡県クリエイティブディレクター、シェラトンJAPANクリエイティブディレクター、などブランディング、広告CM制作多数twitter:@keiichisasaki Facebook:www.facebook.com/k1countryfree HP: www.ugokasu.co.jp