製造小売りとアイドルから得たヒント
ビジネスモデルを具現化するうえで、ニューズピックスは他業界からヒントを得たという。佐々木編集長(現CCO)は製造小売業(SPA)とアイドルビジネスという二つの軸を挙げる。
直接的な代替産業ではないものの、製造小売業という意味では、ユニクロとセブン-イレブンを意識した。いまや多くの産業は、SPA化している。ユニクロは自社で製造し、自社の店舗で売る。セブン-イレブンはオリジナル商品を増やして、高い利益率を獲得している。ニューズピックスは、メディアも「独自商品の生産機能」を持たない限り、成功できないと考えた。無料キュレーションサービスで会員を囲い込みつつ、オリジナルコンテンツを充実させることで、有料会員への移行を促している。
また、著名人のコンテンツを提供するという意味で、タレントビジネスからは、「人に紐づいたサブスクリプションモデル」を参考にした。例えばアイドルを抱える芸能事務所の強さは会員ビジネスから生まれている。アイドルグループは年会費や月会費を払うファンクラブを有する場合が多い。そして、会員になればコンサートチケットの優先権が与えられるほか、食事会や握手会など交流の機会が持てる場合がある。サブスクリプションによって、固定収入を得られることで、ビジネスの基盤が安定する。
そこでニューズピックスも、1500円のサブスクリプションモデルを確立しようとした。ニューズピックスは、プロピッカーらコメントを残す人が目立つメディアである。その人達のファンを作り、プロピッカー達をゲストに呼んだイベントも実施している。
人についたファンはロイヤルティが高く離れづらい。コンテンツの閲覧データを見ても、企業を分析したコンテンツよりも、有名人のインタビューや対談など、人に紐づいたもののほうが人気は高い。お金を払ってもらうには抽象的なテーマではなく、誰が語っているか、誰が書いているかが重要なのである。
既存メディアが取り込まない非顧客層の獲得
ブルー・オーシャンを切り開く際には、既存のプレーヤーが取り込んでいない、非顧客をいかに開拓するかが重要になる。ニューズピックスが取り込もうとしたのが、既存メディアが重視していない若手ビジネスパーソンだった。実際、読者の8割は20代、30代である。
ビジネスメディアの購読層は、40代、50代がボリュームゾーンで、この層にいかに購入してもらうかが、既存メディアの課題だった。また、メディアは、読者とともに作り手側も高齢化していく。年功序列が色濃く残る日本の場合、新聞のデスクや雑誌の編集長の多くは50代、若くて40代後半であり、その層が同年代の読者目線の情報を発信する構図になっていた。
ニューズピックスは既存メディアがターゲットにしていない20代、30代のビジネスパーソンをターゲットにし、編集者・記者も同年代を揃えた。結果として、他に選択肢がないからやむを得ずシニア男性向けの経済メディアを購読していた層、質の高い経済情報へのニーズはあるが、月4000円もの新聞代の支払いを見送る層、そもそも経済メディアに関心がなく、新聞や経済紙を手にする習慣のない巨大な層を取り込むことができたのだ。