血みどろの争いを繰り広げるレッド・オーシャンから、競争のない市場であるブルー・オーシャンへと移行(シフト)した企業は日本にも数多く存在する。『ブルー・オーシャン・シフト』の日本刊行にあわせて、日本企業の事例を紹介する本連載。第1回は、新興経済メディアとして注目を集めるニューズピックスを紹介する。

短期間での急成長を支えた3つの特徴

 ニューズピックスは、経済情報に特化したソーシャル経済メディアだ。経済ニュースのキュレーションメディア(ウェブ上のコンテンツを特定のテーマや切り口で集めて公開するメディア)として2013年にサービスを開始した。既存メディアが疎かにしていた若いビジネスパーソンを中心に、2018年には、無料会員約300万人、有料会員約6万人を抱えるまで成長を遂げている。

 ニューズピックスの戦略は他の大手メディアと比べ3つの大きな特徴がある。1つ目は経済分野に特化したキュレーションメディアであるため、他のメディアが発信した国内外の経済ニュースがそのプラットフォーム上で読めること。2つ目は、SNS機能を重視しており、ニュースに対して複数のその分野のエキスパート(プロピッカーと呼ばれる)によるコメントが加えられ、また読者も自由にコメントできること。3つ目に、特定分野のオリジナルコンテンツを充実させており、既存メディアが力を入れていないテクノロジーやスタートアップ分野を中心に独自コンテンツの強みを持つことである。

 すでに飽和状態にあると思われていた日本のメディア産業のなかで、ニューズピックスはなぜブルー・オーシャンを切り開けたのだろうか。

原体験を共有する創業チームの構築

 同社のサービスは、創業者の一人・梅田優祐が、証券会社に勤めていた時に毎日読んでいたアナリストのコメントから発想したものだ。証券会社では、ある企業のニュースが発表されると、その背景となる事情や、どう評価すべきかという解説が即座に送られてきた。梅田はニュース以上に、それを読み解く専門家のコメントに大きな価値を感じていた。

 それに対して、一般読者は速報性に重きを置いたストレートニュースと、その分野の専門家ほどの知識を持たない記者が書いた解説を読む。それならば、専門家がニュースをタイムリーに解説するサービスをビジネス化できないかと考えた。これまで、ほんの一部の人しか読むことのできなかったプロのコメントを、誰でもが読めるように大衆化し、オープン化を図ったものがニューズピックスの出発点である。

 ブルー・オーシャンは、決して一人で切り開けるものではない。そこで、多くの場合、部門横断的に人材を集めて、チームを構築するのが望ましい。ニューズピックスも、梅田が佐々木紀彦(現CCO)を編集長として召集したころから勢いを増していく。佐々木は2014年当時、大手経済誌のオンラインメディアを日本最大級の経済メディアに成長させていた。佐々木自身もそのキャリアから、世間の事象を速く伝えるだけのストレートニュースはコモディティ化し、レッド・オーシャンと化していることを実感していた。その一方で、ニュースに対する深い分析の欠如を感じていた。またPV(ページビュー)の拡大を実現する反面、収益性の高いビジネスモデルの構築の難しさも実感しており、新しい経済メディアのビジネスモデル構築法を模索していた。

 サービスの核は、有名人やその分野のエキスパートが、どれだけ多くコメントしてくれるかにある。そのため、元金融担当大臣の竹中平蔵氏や元ライブドア社長の堀江貴文氏など、有名で若い世代に人気が高く、かつ高い知見を持った人達を口説いて回り、コメントを投稿してもらうことに成功した。

 ビッグネームを巻き込めたのは、彼ら自身が既存メディアに不満を感じていたからだろう。情報を媒介している記者だけが情報の発信機能を独占していることへの不満やニュ―スの質への問題意識が、多くの経済学者や経営者の間で共有されていた。また専門家の視点から質の高いニュースの解釈が必要だというニーズが共有されおり、そのような人々をチームに巻き込めたことが、サービス開始の大きな原動力となった。