シリコンバレーでIT企業家として長年活躍してきた著者が、ITの専門家としての技能を生かして、自らの体を「ハック」し尽くし、さらには23年の歴史を持つパロアルトのNPO、シリコンバレー保健研究所の所長(後には会長)として、さまざまな医学分野のエキスパートに取材し、現在の科学の最先端の脳の機能UP法を1冊にまとめた。タイトルは『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』。アメリカでは初版から10万部で刊行され、大反響を呼んでいる。本稿では、同書から特別にそのハイライトを紹介したい。

「いい食べ物」もコレで台無しになる

 本書で述べるハイリスクな食品について、すべて気をつけて避けるとしても、たいてい一つのよくある間違いから、ヘルシーで精選された食品を、ミトコンドリア(注:体中の細胞、とくに脳細胞などに多く見られる小器官。本書でハックの対象となるキーワード)を鈍くさせる食品に変えてしまうことがある。その間違いとは、あなたの調理法だ。

 肉を燻製にしたり揚げたりグリルしたりするとき、2つの発がん性物質「複素環アミン」と「多環芳香族炭化水素」が生成される。これらの化合物はがんを発症させるだけじゃない。複素環アミンは神経毒で振戦(震え)を引き起こすこともある。ある研究によれば本態性振戦の患者は、患者でない人と比べて50%多くの複素環アミンを血中にもっていた(*1)。

 もっと悪いことに、複素環アミンと多環芳香族炭化水素はともにミトコンドリア機能を阻害することで知られている。研究によると、複素環アミンを注射されたサルは、ミトコンドリアが変性した(*2)。複素環アミンを与えられたラットは、ミトコンドリアが変異し拡大した(*3)。残念なことに、ご存じのとおりことミトコンドリアに関しては大きいことは良いことじゃない(注:本書4章で既述。ミトコンドリアで電子が動き回るのが不効率になる)。

 同様に、多環芳香族炭化水素の処理は、酸化ストレスを起こし、ミトコンドリア機能を損ね、ミトコンドリアに損傷を加える(*4)。ヒトの気管支の細胞を4時間だけ多環芳香族炭化水素で処理したとき、多環芳香族炭化水素はミトコンドリアが誘導したアポトーシス中の細胞死を妨げたのだった(*5)。(注:アポトーシスは制御された細胞死のこと。本書2章などで解説)。

 酸化ストレスで損傷したがアポトーシスで死ぬのを拒む細胞は、しばしば複製してさらなるダメージを起こす。多数の科学者がいまやこれを、がん細胞の成長の主要なメカニズムの一つであり、多環芳香族炭化水素の発がん性が高い理由の一つであると考えている

 いくつかの調理法(あとで概観する)のもう一つの問題は、重要なタンパク質を損なうことだ。タンパク質が損なわれるとき、「熱変性」すると考えられる。変性タンパク質は必ずしも毒性があるわけじゃないが(人も食物を消化しながら、タンパク質を変性させている)、あまりきちんとタンパク質の仕事をすることができない。

 たとえば、ホエイプロテイン(乳清タンパク質)は、ミトコンドリアがきわめて重要な抗酸化物質グルタチオンを生成する働きを高めるが、変性してしまうと、この重大な任務を果たすことができない(*6)。多くのグルテンフリーの焼き物のレシピにはホエイプロテインが含まれるが、僕はこの理由から避けている。