たとえば、先輩・後輩といった上下の関係がはっきりしている野球界では、「必ず先輩が後輩に食事をおごる」という慣習がある。僕も後輩と食事に行けば、必ず支払いをしている。僕自身はその慣習が嫌いなわけではないが、いつか大活躍する後輩投手から「いまは僕のほうが稼いでいますし、今日は和田さんにごちそうしますよ!」などと冗談を言われる日がやってくることも、心のどこかで楽しみにしている。
「若手選手たちの“目標”であり続ける」という責任
翻って、では、現在の自分が彼らにできることは何かと考えたとき、僕が思い浮かべるのは、元・中日ドラゴンズの今中慎二投手のことだ。
僕は小学生のころからずっと、ピッチャーとしての今中さんに憧れてきた。140キロ台後半の速球と、大きく縦に落ちる緩いカーブを操ったドラゴンズのエースだ。
ずっと身体が小さかった僕にとって、身長こそ高かったがプロの中ではかなり細身の今中さんが、ストレートとカーブの2球種だけで、プロのバッターをねじ伏せる姿は、とてつもなく格好よく見えた。自分と同じサウスポーだったことも、憧れの気持ちをさらに大きくさせた理由だったと思う。
プロに入って、初めて今中さんと対面する機会に恵まれたとき、尋常でないほど緊張したことはいまでも憶えている。僕がこれまでの人生で、自分のためにこちらから「サインしてください」とお願いしたのは、ソフトバンク球団の王貞治会長と、今中さんの2人だけだ。今中さんにいただいたサインボールは、現在も実家に大切に飾ってある。