接待に即座の「見返り」は求めない

 ただし、私は接待の「見返り」を即座に求めることはしませんでした。
「これだけのプレゼントをしたから、あの情報を教えてもらえるだろう」「これだけのお店でご馳走したから、仕事を回してもらえるだろう」などという打算は、すぐに相手に伝わります。するとその接待は「ビジネスから離れた特別な空間」ではなく、「ビジネスそのもの」の空間となり、相手に警戒されます。もちろん、距離が縮まることもありません。

 もちろん、接待するからには、そうした思惑があるのは当然のことです。しかし、そこにフォーカスするのではなく、とにかく相手と「特別な空間」を共有することで信頼関係をつくることに集中する。つまり、相手の人間に関心をもち、好感をもつことにフォーカスするのです。それができれば、結果として、当初の意図を超えたチャンスが与えられる。それが接待なのだと思います。

 その意味で、明確な利害関係のある相手を接待するだけが能ではありません。

 本当に接待の上手な人は、「なぜ、この相手にこんな高額な接待をするのだろう?」と思うようなことをするものです。
 社長であれば、取引関係にない会社の社長と親しくなるために接待をする。もちろん、具体的な商談案件があるわけではありませんから、そんな話題には一切触れません。しかし、その場で人間同士の信頼関係を築くことができれば、これがボディブローのように効いてくる。

 たとえば、相手の社長は接待の翌日、社内で「昨日、A社の〇〇さんからこんなもてなしを受けてね」と好意的に話すかもしれません。あるいは、社内でその会社の名前が出るたび、好意的なコメントをするかもしれません。そのような機会が重なれば、社内にA社に対する好意的なイメージが醸成されるでしょう。

 そんななか、A社の現場営業マンがその会社にコンタクトを取れば、初手から悪い反応はないでしょう。その案件が上層部の耳に入れば、前向きな反応が返ってくるはずです。そして、「少し仕事を回してみるか」となるかもしれない。

 接待の効果はこのように、間接的に波及していくものなのです。直接的にはあくまでも「特別な空間」を共有する仲間。リスペクトし合いながら「特別な空間」を共有することが、結果として円滑なビジネスにつながっていく。思いもよらないチャンスをもたらしてくれる。困ったときにそっと手を差し伸べてくれる。接待とはそのようなものだと感じます。