ファシリテーションスキルはどこでも鍛えられる森 時彦(もり・ときひこ)神戸製鋼所を経てGEに入社し、日本GE役員などの要職を務める。その後、テラダイン日本法人代表取締役、リバーサイド・パートナーズ代表パートナーなどを歴任。現在はチェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役として組織活性化やリーダー育成を支援するかたわら、執筆や講演等を通じてファシリテーションの普及に努めている。ビジネス・ブレークスルー大学客員教授、日本工業大学大学院客員教授、NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー。近著に『ストーリーでわかるファシリテーター入門』がある。

 実は、その会社で運営する駐車場のうち、3分の2は黒字だったのですが、3分の1は赤字だということがわかりました。実際には取引関係などがあって簡単ではありませんが、単純に考えれば赤字の駐車場をすべてやめれば、利益は2倍になる。そのことが、自分たちが作ったグラフから読み取れるわけです。それに気づいた瞬間、社員のみなさんは唖然としていました(笑)。

 その後、その会社の社員たちは、仕事への取り組み方が徐々に変わっていくようになりました。それまでは上の指示に従うだけだったのが、「どこに駐車場を作ればいいのか」とか、「車を停めてもらうために、どうやってプロモーションをすればいいのか」など、利益を上げるためのさまざまなアイデアが出てくるようになったんです。

黒田 最初の段階で「利益を上げるためのアイデアを出してください」と聞くだけだったら、大したアイデアが出てこなかったかもしれませんね。駐車場の分布マップを作り、さらに各駐車場の利益を数値化して比較するプロセスがあったからこそ、一人一人の視点が変わり、気づきやアイデアが生まれ、行動に変化を起こすことができたんだと、お話をうかがっていて感じました。

 何を観察・記録・分析すれば、組織やチームのメンバーが自ら考えて動けるようになるか。一方的に「考えろ」「動け」と指示するのではなく、メンバーが考えて動けるようになるために必要なステップを提示して背中を押してあげること。それこそがファシリテーター型リーダーの重要な役割ですよね。

黒田 森さんの『ストーリーでわかるファシリテーター入門』の中にも、主人公が店舗スタッフたちに「在庫回転数」という指標を教えて、彼らに実際に在庫回転数を計算させたり、他店の数字と比較させるシーンが描かれています。その場面は、まさに今おっしゃったことをイメージして書かれたのですね?

 ええ。何も知らなければ、考えることも動くこともできません。自分の目で観察したり、手を動かしたりして考えるための材料を得てはじめて、人は自ら考えはじめます。

 また、もうひとつ大事な点は、そうしたステップを踏んでいくにはある程度の時間がかかるということです。コインパーキングの会社でも複数回話し合いの場を設けました。準備がしっかり整っていれば別ですが、通常は1回のミーティングだけですぐに成果に結びつくことはありません。自分たちの目で観察してデータを集め、分析してみる。それを踏まえながらファシリテーターが入って2回、3回と話し合いを重ね、試しに何かやってみる。また話し合う。そういうループが回り始めると成果が出て、効果がじわじわと組織に実感されていくと思います。

おすすめは、Tチャートを使った
振り返りミーティング

黒田 組織にファシリテーションを浸透させるには、ちょっとしたことでもいいので、その効果を実感してもらうことが大切ですよね。

 当社の研修でも、最初に参加者の方々に「ファシリテーションって効果があるんだ」と感じてもらうために、全員でゲームみたいなことをやって、みんなで知恵を出し合うことの実効性を体感できるようなプログラムを組んでいます。

 ファシリテーションの効果をわかりやすく実感してもらうために、黒田さんがおすすめしている方法はありますか?

黒田 自分で一から会議手法をデザインするのは難易度が高いですから、森さんがGEで経験された「チェンジ・アクセラレーション・プログラム(CAP)」や「ワークアウト」などの手法を活用するのは一案です。ただ、それらも決して、簡単とはいえないですね。

 最も簡単な手法として、私がみなさんにおすすめしているのは、Tチャートの手法を使った振り返りミーティングです。何かチームでアクションを起こしたら、そのあとで必ず「上手くいったこと」や「上手くいかなかったこと」などを振り分けて洗い出していく。要するにPDCAの「C」の部分です。そのとき、ファシリテーションのもっとも標準的なツールである「Tチャート」(情報を2つの欄に書き分けて整理する方法)を使います。

 Tチャートを使った振り返りミーティングならば、誰でもできるし、進行役の人がオープンマインドなスタンスで全員の意見や感想をきちんと取り上げることができれば、次にとるべきアクションも見えてきます。ファシリテーションがやりやすいだけでなく、チームの生産性を上げていくことにもなると思うんです。

 たしかにTチャートは情報が視覚化されてわかりやすいですし、比較・対照しやすいのでいいかもしれませんね。