就業規則はブラックボックス
就業規則は会社が一方的につくるルールなので、法律に違反しないことはもちろん、「合理的」でなくてはいけないという要件が労働契約法に定められています。変更する場合も当然、合理的でなくてはいけません。
それでは就業規則を作成したり、変更したりするとき、その内容が合理的かどうか、どうしたら確認できるのでしょうか。
残念ながらその手段はなく、使用者はとりあえず合理的だと思われる就業規則に則って労働者を雇用するしかないのです。それに対して異論を唱える労働者が出てこない限り、その就業規則は問題なく通用するでしょう。
ところが労働者との間に労務トラブルが生じて訴訟になったとたん、状況は変わります。社内できちんと通用していたにもかかわらず、裁判官は就業規則を合理的でないと判断し、内容を読みかえてしまうのです。
たとえば「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」という規定はどこの会社にもあるでしょう。経営者とすれば、そのルールに従って、懲戒解雇した労働者に退職金を支払わないのは当たり前です。ところが裁判所はそうは考えません。そのルールは合理的でないと判断し、会社側に退職金の支払いを命じるのです。
小田急電鉄の社員が他社の電車内で痴漢行為をし、懲戒解雇になったケースがありました。ただし、小田急電鉄はいきなり懲戒解雇をしたわけではありません。社員から事情を聞き、1回目はもっと軽い処分を科したのです。しかしその社員は再び痴漢行為をして捕まりました。以前から痴漢の常習犯だったのです。
この事情を知った小田急電鉄は懲戒解雇せざるを得ないと判断し、退職金も支給しないことを決めました。就業規則の「懲戒解雇の場合は原則として退職金を支給しない」というルールを守ったわけです。その後、この社員は懲戒解雇の無効を主張して訴訟を起こしましたが、東京地裁は原告が電鉄会社の社員という立場であることを踏まえて、原告の訴えをすべて退けました。
しかし東京高裁は懲戒解雇が有効であることは認めながらも、退職金については3割を支払うよう命じました。原告が逆転したのです(小田急電鉄事件 東京高裁判決平成15年12月11日)。