裁判官が137万円もの賃金減額を認める先例をつくることに慎重になるのは、よくわかります。労働者の合意がないまま賃金を削減できるという先例をつくりたくないのは理解できるのですが、資金繰りが悪くなり赤字経営に陥ってから賃金を下げても間に合いません。会社が倒産してしまっては元も子もありません。

 ですが、これが日本の労働法の現実です。毎月固定でもらえる基本給や手当は聖域であり、余程のことがない限り削減することはできません。会社の経営状態が多少悪くても、労働者の同意がない限り切り下げることはできないのです。

絶対額が小さくても手当はカットできない

 日本航空の場合、137万円の減額は絶対額として相当大きいという判断がされましたが、絶対額が小さい手当ならカットできるというわけではありません。

 あるメーカーでは、時間外食事代(500円)や営業職の外出時食事補助(400円)などをたくさんつけていました。ところが時代が変わるにつれて、この待遇が恵まれすぎているのではないかと考え、会社は1人当たり数千円の食事手当のカットを申し入れたのです。

 実際、時間外労働をしたからといって、会社で食事をしているかどうかはわからないのですから、その手当の主旨からすれば経営者が手当のカットを考えるのは当然でしょう。しかし労働組合は手当のカットは不当として反対し、訴えを起こしました。そして主に会社の業績が黒字であること、各種手当も賃金であり不利益の程度は大きいという理由で、会社側は負けてしまったのです。

 今後、賃金に手当を加えようと考えているなら、注意が必要でしょう。ひとたび手当をつけたら余程のことがない限り削れないと覚悟しておいたほうが無難です。いざ削減しようとしたとき、会社に労働組合があり、労働組合の理解が得られない場合は確実にトラブルに発展します。

 会社の利益を労働者に還元する場合には、むやみに手当を増やすより、賞与を利用するのが安全です。賞与を定額で支払うなどの就業規則の記載がない限り、賞与ならばどんなに切り下げても訴えられることはありません。