1 指標の誤り
GDPを算出するには数多くの選択を行う必要があり、合理的な選択でさえ偏った結果につながる可能性がある。統計学者たちは当然ながら、売買により市場価格で簡単に価値を測定できる財とサービスのほうを好み、価値を推定しなければならない経済活動はあまり好まない。
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無償の家事労働などは経済的にきわめて重要なのは明らかだが、計算から除外されている。さらに、医療の提供などの政府プログラムの価値は、余暇の価値と同様、基本的に実際より過小評価される。
しかしその一方で、推定を嫌う傾向も首尾一貫したものではなく、たとえば、もし住宅所有者が住宅を所有していなければ支払っていたであろう金額の推定値である「帰属地代」は、アメリカのGDPの約10%を占める。
GDPに必然的に伴うもう1つの恣意性は、80年代と90年代初頭にGNPから切り替えられた際に紛れ込んだものである。
GNPでは、その国の国民の所得を、世界のどの場所で得たかに関係なくすべて算入していた。ところが、貿易と投資がグローバルで成長するにつれて、雇用や工業生産といった国内指標とGNPに食い違いが見られるようになった。そのため、国内生産のみを測定するGDPに移行するほうが理にかなっていた。
しかしこの変更によって、多くの国で成長軌道が変化した。海外からの直接投資の多い開発途上国ではGNPよりもGDPのほうがはるかに早く成長したが、必ずしもその恩恵を被ったわけではない。投資収益のほとんどは多国籍企業の手に渡ったからである。