国家の成功の尺度は長い間、国の経済産出量のドル換算額、すなわち、当初はGNP(国民総生産)、後にはGDP(国内総生産)で表されてきた。これは、かつての軍事的勝利によるランク付けよりも優れた方法だった。

しかし現在、GDPは攻撃の的になっている。その批判は次の3つに集約される。①GDPはそれ自体欠陥のある指標である、②持続可能性や持続性を考慮に入れていない、③進歩と開発の測定には別の指標のほうが優れている場合がある、というものである。

他方、心理学的研究を重要視する行動経済学が台頭し、経済学者と国家のリーダーたちは、国の状態を別の基準で、しかも「幸福」のような曖昧とも思える概念で測定しようと試みている。たとえば、UNDP(国連開発計画)のHDI(人間開発指数)の取り組みや、GNH(国民総幸福量)の最大化に熱心なブータン王国の例などが挙げられる。このように、GDPの代替案について各界で真剣な議論が高まっており、経済政策に実際的な影響を与えるようになるかもしれない。

豊かさの基準は何か

 お金がすべてではない。しかし国家の成功の度合いの尺度としては、これまでお金以外の基準はほとんど存在しなかった(もちろん、スポーツは例外であるが)。第二次世界大戦以降、この目的で広く使われてきた指標は国の経済産出量のドル換算額で、当初はGNP(国民総生産)、のちにはGDP(国内総生産)で表されている。

ジャスティン・フォックス
Justin Fox
ハーバード・ビジネス・レビュー・グループのエディトリアル・ディレクター。著書にThe Myth of the Rational Market, HarperCollins, 2009. (邦訳『合理的市場という神話──リスク、報酬、幻想をめぐるウォール街の歴史』東洋経済新報社、2010年)がある。

 これは長い間、最も由緒ある基準であった、軍事的勝利によるランク付けよりも優れた方法である。そして、GNPとGDPで富が測られる時代は、生活水準と富がグローバルで大きく上昇したことによって特徴づけられる。

 しかし現在、GDPは攻撃の的になっている。経済学者と国家のリーダーたちは、国の状態を別の基準で、しかも「幸福」のような曖昧とも思える概念で測定しようと発言することが増えている。

 2009年に行われたGDPに代わる尺度の研究は、フランスのニコラ・サルコジ大統領がその前年に委託し、経済学者のアマルティア・セン、ジョセフ・スティグリッツ、ジャン=ポール・フィトゥシがその指揮を執ったもので、世界じゅうで専門家を騒がせている。それに続いて2011年10月、世界の富める国の連合体であるOECD(経済協力開発機構)は、加盟国の「幸福度」(well-being)に関する報告書How's Life?(幸福度の測定)を発行した。

 民間のレガタム研究所は、2007年から毎年、世界各国の繁栄指数(Prosperity Index)を発表している。これは経済指標とその他の指標を高度に組み合わせたものである。

 各国がこの種の指標づくりに熱心に参加しており、イギリスのデイビッド・キャメロン首相は国の幸福度を測定するプランを明らかにして大きな波紋を呼んだ。GDPの対抗馬として何十年も前から試みられているUNDP(国連開発計画)のHDI(人間開発指数)の取り組みや、GNPやGDPではなくGNH(国民総幸福量)の最大化に熱心なブータン王国の例もある。

 ビジネスに身を置く者ならだれでも、「測定できないものは管理できない」という格言を知っている。そのため、GDPの代替案についての議論は若干取りとめのないものに見えるかもしれないが、各界で真剣な議論が高まりつつあるため、経済政策に実際的な影響を与えるようになるかもしれない。

 またこれは、総合的な成功の度合いを測定する新たな指標を採用しようという一部企業の取り組みとも軌を1にしている。そのため、このようなムーブメントがどこから始まり、どこへ向かっているのかを検討することには意義がある(注)

【注】
業績指標の拡大が経営管理上の新しい優先事項にどうつながるかについてはChristopher Meyer and Julia Kirby, "Runaway Capitalism," HBR, January-February 2012. (未訳)を参照。