ノウハウをそのまま「完コピ」する

ジェイク:ところでクックパッドでは、どのようにスプリントを実践しているんですか。

五十嵐:これまで、さまざまなプロダクト開発のフレームワークの導入を試してきました。しかし、フレームワークを試すと「この進め方は正しいのか?」という議論になってしまいがちで、肝心のプロダクト開発の議論が進まないというケースが多くありました。

 それで、これはCEOの岩田の提案だったのですが、スプリントを取り入れるにあたり、「まずはに書かれている通り、すべて忠実に実践することにしてみよう」と。それで、掲載されているチェックリストもそのまま使って、中途半端なアレンジは一切加えず、完全コピーでやりました。進め方については考えない、と。すると、自然とプロダクトやユーザーについての議論にフォーカスすることができて、うまく行くようになったんです。

五十嵐啓人(いがらし・ひろと)
クックパッド株式会社プロダクトマネジメント担当本部長
クックパッドには2010年から所属し、国内の利用者の拡大に責任を持ち、WEB・モバイルアプリの戦略やレシピ検索、クックパッドニュースの立ち上げなどに関わる。現在は国内のレシピサービスおよび、毎日の料理を楽しみにするためのレシピサービスにとどまらない新規サービスの立ち上げの責任者を担う。

ジェイク:私もまったく同じ経験をしています。デザインに関わっていると、いろんな人からさまざまなプロセスの進め方の話を聞く機会が多く、素晴らしい方法だなぁと思うことがよくあります。

 ですが、それをいざ実践しようとすると、実際にはいろんなところで引っかかったりして難しいものです。しかし、あまりプロセスのことで頭を使うと、コンテンツへの意識がおろそかになってしまいます。

 だからこそこの本では、チェックリストもつけて、とにかくこのままこうすればいいということを細かく書いたわけです。ですから、まさにコンテンツに集中できるというメリットを実感してもらえたのはとても嬉しいです。

五十嵐:クックパッドはイギリスにも開発拠点があり、そこでもスプリントを導入しています。このスプリントが優れていると思うのは、本来解決すべき課題に集中できるという点に加えて、国境を超えても共通のプロセスを使うことでシームレスに業務が進められるところです。これは今後日本人にとっても海外で働きやすくなるチャンスだと思うんです。

ジェイク:本の出版後も、スプリントはソフトウェアのオープンソースのように、いろんな国の人たちが実際に使うことで改良され続けています。これによって、世界でベストのプロセスになっているのです。

ファシリテーター能力はどうすれば身につくか?

倉光:ところで、実際にスプリントを行う中で我々が直面している課題について質問させてください。

 スプリントをするにあたって、まずファシリテーター(進行役)を任命する際、スタッフから「自分に議論を促進するファシリテーションスキルがあるか、自信がなくて不安です」という相談を受けることがあります。議論を止めて次のステップに進んだり、皆が話している内容を素早く振り返って共有したり、逆に停滞しているときに議論を促すような能力はどうやったら身につくのでしょうか。

ジェイク:やはり「サービスデザイン(顧客の課題を的確に捉え、適切なサービスに落とし込むまでのプロセス)における実績と経験を積むこと」、そして「そのグループをリードしていく権限を持つこと」です。
 参加メンバー全員がスプリントのプロセスを経験して理解できていれば、ファシリテーターの役割は時間管理程度で済むのですが、通常はグループを前に動かしていくことができる力を持っていることが必要でしょうね。

 また、ファシリテーターは、さまざまな職種の人に経験してもらうほうが、スプリントを進化させていくという意味でプラスになるのではないかと思います。

「楽観的思考」と「悲観的思考」を行う

五十嵐:本の中では「終わりから始める」、という表現が使われていますが、スプリントで最初に行う大事なこととして「目標の設定」があります。このプロセスについて、改めて詳しく教えてください。

ジェイク:スプリントではまず、理想とする「長期目標」を楽観的に考えます。「顧客によりよい体験を提供すること」や「顧客を増やすこと」といった大きな目標です。これはホワイトボードのいちばん上に書いておきます。これは5日間の中で灯台のような役割をします。

 一方で、長期目標を設定した後は逆に悲観的になって、「どうなったら目標がうまくいかないか」「何をしたら失敗するか」、あるいは「成功を阻害しそうな要因は何か」といった懸念を質問に落とし込んだかたちで考えます。これらを僕たちは「スプリントクエスチョン」と呼んでいます。

 この「スプリントクエスチョン」は、最終日に行う試作品のユーザーテストでも、チェックリスト的に使います。最初に抱いた懸念を最終日に解決できているかどうか、というのを見るツールとして非常に有効なのです。