料理レシピ投稿・検索サービスとして圧倒的な利用者数を誇るクックパッド。同社ではどうすればサービスをよりよくできるかと考え、さまざまな企画や開発を行い続け、日々サービスを進化させ続けている。そんな彼らの進化を支えているのが、グーグルでジェイク・ナップが開発した仕事術「スプリント」だ(スプリントは短距離走/全力疾走の意)。
クックパッドではCEO岩田林平がこのノウハウに興味をもったこともあり、社員の多くがナップの著書『SPRINT 最速仕事術』を熟読、実践を重ねているという。同社ブランディング・編集担当本部長の小竹貴子は「新サービスが生まれたり、いままでなかなか進まなかったサービス改善などの意思決定スピードが上がり、会社全体の勢いが増してきたように感じている」とその効果を認める。
今回、同社でスプリントのファシリテーター(進行役)をしながら、スプリントの普及を進めている五十嵐啓人と倉光美和が、開発者であるジェイク・ナップにオンラインインタビューを慣行した。(構成:加藤紀子)
グーグル式仕事術「スプリント」とは何か?
五十嵐:スプリントは、製品やサービスをつくるにあたって、たった5日間でアイデア出しから試作品の制作、顧客へのテストまでしてしまう手法です(編集部注:スプリントの詳細については、「グーグルが開発『異常に速い』仕事法の驚くべき威力」も参照)。
海外では「Google I/O」(グーグルが毎年開催している開発者向けの大規模イベント)などでも紹介され、グーグルやスタートアップ企業を中心にさまざまな企業で製品開発のために利用されていると聞きます。アメリカや他国の企業では、いまどのような使われ方をしているのでしょうか?
ジェイク:スプリントはもともとは私がグーグルでビッグプロジェクトに役立てたいというきっかけで始めたものなのですが、それが他のスタートアップ企業にも適用できるということがわかりました。というのも、スタートアップ企業にとっては、立ち上げ当初は時間も資金も負担が大きいため、最大限に効率よく、素早く意思決定ができるスプリントはうってつけだったのです。
最近では、とくに欧米の多くの企業でイノベーションに生かされていますし、ひいては「企業文化の変革」にも非常に役立っていると言えます。企業においては、イノベーションを起こそうとしてプロジェクトチームをつくったり、新しいビジョンや方針を打ち出しても、なかなかそれだけでは人の行動や企業文化を変えることは難しいものです。
けれども、「5日間を費やしてスプリントをやる」というたった1つの意思決定が、企業文化を真に大きく変革することにつながるのです。この徹底して合理的なプロセスに人々が関わることで企業そのものが変わっていく例が数多くあります。これも、スプリントがもたらす大きな価値だと思っています。
日本に「合理的仕事術」はフィットするか?
倉光:一方で日本では、スプリントについて「やってみたいんだけど……」とか「ワークショップはやりましたが……」といった声はよく聞くものの、「実際のプロジェクトにおいて継続的に導入している」という企業事例をまだあまり見かけません。最初の一歩が踏み出せないといった感じかと思います。日本企業がスプリントを実践していくためにはどんなコツがあると思いますか?
ジェイク:たしかに日本の人たちと話をすると「日本の企業文化は欧米とは違うので」と言われることがありますが、じつは、新しいものをどんどん試していく企業文化のグーグルでさえ、スプリント導入には結構時間がかかりました。ですが、やってみると非常に成果が上がったという成功事例が出ると社内のプロジェクトで多くのチームが活用するようになり、その事例がさらに社外に出て、ようやくそこから他社が試すようになり、世界中に広まったわけです。
ですので、グーグルのときと同様、やはり御社のような具体的な成功事例がどんどん広まっていくことが普及させるための最良のカギになるんだと思います。
倉光:いわゆるスタートアップやインターネットサービスの企業ではなく、保守的で伝統的な企業での導入事例はありますか。
ジェイク:代表的な事例を挙げるならLEGOですね。クリエイティブな企業というイメージを持っている人もいると思いますが、社歴は100年ほどの伝統的な文化を持った企業です。他の伝統的企業と同様、玩具のデザインから製造、マーケティングに大きな時間をかける企業体質でした。こうした保守的な企業文化の中で、スプリントを導入したことは画期的でした。
その他にも伝統的なところとしては大英博物館、あるいはアメリカの大手企業のプルデンシャル生命などもスプリントを使っています。
いずれの企業も、社内で誰かが使い始めて、それがだんだんと広まっていったという点で共通しています。業態はまったく違うのに意外にも直面している課題は似通っており、スプリントのプロセスを忠実に実践することによって課題を適切に把握し、解決に繋げています。