陽太郎くんは生まれて間もなく化学物質過敏症(MCS=注1)を発症した。そのうえ重度の食物アレルギーで、10種類くらいの食品しか食べられない。しかも、化学物質に暴露するとアレルギーが発症して体調が急変し、生命にかかわることもあるので、登校にはいつも母の和代さん(仮名)が付き添う。

 1年から通った別の小学校では、一つの教室を改修してMCS児童のための「病弱・身体虚弱の特別支援学級」(以下、病・虚弱支援学級)を設置してもらい、担任の先生から個別指導を受けてきた。

(注1)MCSは、(多くの人が何も感じないほど)微量の化学物質にさらされると、頭痛・思考力の低下・目のかすみ・息苦しさなどの症状が出る病気。重症になると校舎に入ることもできない。近年、柔軟剤や消臭芳香スプレーなど「香りつき商品」の成分が原因で発症する子どもが増えている。

 ところが、小学校の統廃合で5年から現在の小学校に通うことになった。

 この小学校は、新築に近い大規模な改修工事が行われ、多量の揮発性化学物質が放散される。しかも児童が4倍もいて、児童の衣服に残る柔軟剤などによる「香害」がきつくなる。

「中学までは無事に学ばせたい」。そう考えた市の教育委員会が多くの関係者の支援を得て完成させたのが、移動式特別教室だ。

 MCS患者の住まいに詳しい足立和郎・パハロカンパーナ自然住宅研究所代表(京都市右京区、本人もMCS患者)が全面的に協力した。

 特別教室は軽量鉄骨で構造を造り、材木で肉付けしてある。寒い地域なので高気密・高断熱。内装材は陽太郎くんが反応するかどうか、一つひとつテストして選んだ。

 フィルターを活性炭入りに付け替えた空気清浄機や浄水器も設置されている。完成後3ヵ月ほどは、前の小学校の校庭に仮設置して大気にさらし、昨年3月に現在の小学校に移した。

 陽太郎くんはここで、午前・午後のすべての授業を受ける。

 彼の病状をよく理解している担任は、さまざまな配慮をしてくれる。たとえば、チョークにも反応するので、反応しない色鉛筆を使い、机をはさんで向き合い、文字を(陽太郎くんが読みやすいように)さかさまに書いて指導するといった具合だ。

 陽太郎くんは学校が楽しくてならない様子。金曜日の授業が終わると、「早く月曜にならないかな」とつぶやく。