ブレストの非効率性は研究で証明済み
ここでスプリントがこだわるのは、全員が「個別」に取り組むということだとジェイクは強調する。
「僕は経験上、集団でブレーンストーミングするのではなく、各自がじっくり問題に取り組んだ方がより良い結果が得られることを知っている。
グーグルで何度もワークショップをしたときも、成功したアイデアは、どれもブレストから生まれたものじゃなかった。最良のアイデアは、机に向かっているときやシャワーを浴びているとき、一人で考えたときにこそ生まれていた。その場で考えるのでは、時間が足りなくて深く考えられないのかもしれない。
ブレストで出たアイデアよりも個人で生むアイデアのほうが質が高く独創性に富んでいるということは多くの研究からもはっきりしている。
ブレストは、付箋をペタペタ貼って言いたいことを言い合って、確かに楽しい。でも、そこで出てきたアイデアを土台にしてさらに作り込めるということは滅多に起きないんだ」
ベストを決める
水曜日は「決定」の日。火曜日に出したソリューションを突き合わせ、どのソリューションがプロトタイプ作成とテストの対象となるかを決める。
今回はジェイクが準備した『ディジット』の3つのスケッチを対象に、「ヒートマップ作成」を行った。
「誰とも会話しないで黙って、スケッチの中の面白いなと思えるところにドットシールを貼って。これは特にすごい!と思ったら、何枚貼ってもいいよ」
シールがたくさん集まったところがハイライトだ。それについてグループ全体で話し合う。
さらに各自がベストと思うアイデアに大きなシールを貼るのだが、これも静かに黙って決める。
なぜ「みんなで決める」議論はうまくいかないのか?
だがスプリントの意思決定はコンセンサス方式ではない。最終決断は、決定者のみで行う。決定者は、メンバーが大きなシールを貼った結果はあくまでも「目安」にするだけだ。
ジェイクはこれまで、多くのチームとスプリントを実践してきた結果、チームの多くが「コンセンサス」を好む傾向にあると気づいたという。
「トンがったアイデアも、コンセンサス方式だと、まるっとしたかたちにしてしまい、みんなで『それがいいね』と納得して決めてしまう。だが大胆なソリューションを作ろうとするとこれでは成功できない」
水曜日は、決定者がベストな判断を下せるために必要な、正確な情報を与えるためのプロセスだ。
ただし1つのアイデアに絞り込めず、選ばれた複数のスケッチが相容れない場合もある。
「まったく違う複数のプロダクトを実際にローンチすることはできないけれど、スプリントならできる。それぞれ試作品(プロトタイプ)を作って顧客に見てもらえばいい。今回は3つのアイデアを戦わせる」
1日でざっと試作品をつくる
木曜日はたった1日で試作品を作らなければならない日だ。
プロトタイプは「本物」に見えるものにしなくてはいけない。顧客にベータ版だと思って欲しくない、とジェイクは言う。
「金曜日に実際に顧客の反応を見るためにプロトタイプを見せる時、彼らの素直な反応が見たいんだ。1日で本物らしいプロトタイプを作るのは、難しそうに見えて実はそうでもない。単にスクリーンショットをつなぎ合わせるだけでも本物に見えるものさ。今はそんな便利なツールがたくさんあるから」
今回のディジットの場合は、「USA トゥデイ」のニセ記事を見てそれぞれのプロトタイプを試すという流れに仕立ててあり、金曜日の顧客へのテストに続く。
実際に顧客に見てもらう
最終日の金曜日は、サービスとしてのプロトタイプをテストする日。チーム全員で顧客へのインタビューをライブビデオで見る。
インタビュアーはあまり喋らない。十分なうながしを行えばいいだけだ。
3つのアイデアがある今回の場合はホワイトボードにマスを描いて、そこに5人の顧客の反応をメモし、3人以上が似たようなことを言っているところに丸をつける。青色でうまく行ったこと、赤色でうまく行かなかったことを書く。
「グーグル時代、Gmailの何百万ものユーザーデータがあっても、なぜユーザーはこんな使い方をしているのかという議論で見解が分かれることがあった。
金曜日のテストは、こうした定量的なデータがなくても、たった5人に1対1でインタビューするだけで、その『なぜ?』に対する答えが出てくるんだ。5人のお客さんがプロトタイプにどう反応するか、5人目のインタビューを行う頃には、大きなパターンが明らかになってくるよ」
ジェイクは「プロトタイプは使い捨て」と言い切る。
「テストをすると、何が良くて何を変えるべきかがわかってくる。チームのみんなが同時に同じものを見ているので、その場で問題意識が共有できる。だから速やかにプロトタイプを修正し、改善していくことで、よりマーケットにフィットしたサービスやプロダクトを作ることができるんだ。テストだから失敗したって構わない。失敗によって多くのことを学べるんだからね」