フリクションのヒットを「インサイト」で分析する

すばらしい画期的な技術を使った製品でも、人々のニーズと結びついていなければ、人々に買ってもらえません。しかし、同じような技術でも、人々のインサイト(潜在ニーズ)を見つけ出し、それをとらえた製品にすることができれば、世界的な大ヒットを生みます。そんな例を、ひとつご紹介しましょう。

フリクションが売れた理由を「インサイト」から分析する

それは、パイロットコーポレーションの「フリクション」。(図1参照)ボディ端のラバーでこすると書いたインクが消える、「消せるペン」として世界的に大ヒットしている製品です。

パイロットコーポレーションには、熱で色が変わるインクをつくる特許技術がありました。文具の製品としては、2002年に、ラバーでこすると摩擦熱で色がカラフルに変化する「イリュージョン」というペンがテスト的に発売されました。技術的には画期的でしたが、「色を変えて楽しみたい」というニーズは限定的で、実用的な筆記具ではなかったため、市場は大きくありませんでした。

しかし、ヨーロッパ統括チームが、あることに気づきました。
それは、フランスやドイツなどのヨーロッパの国々では、子どもでも学校でノートをとるのに、ボールペンや万年筆を使っていること。書き間違えると、いちいち「インク消し」で消さなければなりません。(ちなみに、鉛筆は図画用です)

インク消しを使うのが当たり前なので、誰も言わないけれども、「ボールペンの字を簡単に消す」というニーズが潜在的にあるのでは、と気付いたのです。
そして、イリュージョンのように、こすることで「色を変える」のではなく、「色を無色透明にする」ことができれば、「書いた字を消せる」のではないかという着想を得たのです。
かくして、「消せるボールペン」が誕生しました。

多国籍のヨーロッパ統括チームが、「フリクションFRIXION」というネーミングも発案。2006年に、世界に先駆けて、まずフランスで発売。ヨーロッパで爆発的なヒットを記録したあと、日本でも発売されました。
まず、需要が大きそうなヨーロッパから市場導入し、日本は世界市場のひとつとして、あとから導入したわけです。
「フリクション」シリーズは、ボールペンのヒットを受けて、蛍光ペンや色鉛筆、スタンプなどに製品ラインを拡大。2006年の発売以来、2017年4月末までに、世界累計販売本数が20億本を超える、大ヒット商品になりました。

このように、インサイト(潜在ニーズ)をとらえた新製品を開発できれば、新しい市場を創造し、大きな成功をおさめることができるのです。

日本企業が、海外で、そして日本で、人々の潜在ニーズをとらえ、製品開発部門を含む全社でマーケティングに取り組む「マーケティング・カンパニー」になることで、もっともっと世界で活躍することができる。本書『戦略インサイト』がその一助となれば幸いです。