市場機会はどこにあるか?

彼女たちは、手磨きしているのに、なぜ電動歯ブラシを使わないのか?
それは、「大きすぎる」というサイズや「音が大きい」という機能的な問題だけではありません。さらに理由を掘り下げていけば、「今の電動歯ブラシは、おじさん臭くて、使うのが恥ずかしい」「そんな大きな電動歯ブラシで、ブワーンとか鳴らしながら歯磨きしたら、まわりの女子から歯周病にでもなったの?と思われてしまう」といった心理的な抵抗感があることもわかります。

一方、化粧品は人前でも堂々と使えるし、「それ、いいね」と話題になったりもします。
女子に化粧室で使ってもらうためには、化粧品のような「見え方」が大事だというヒントが得られます。さらに、このチームが素晴らしかったのは、化粧室で使うものは、「化粧ポーチ」に入れていくということに目を付けたことです。

聞くところによると、開発リーダーは男性でありながら、まわりの女子社員に頼み込んで100人くらいの化粧ポーチの中を見せてもらい、写真に撮ったといいます。そして、「マスカラ」サイズの大きさなら、まだ1本入るスペースがあるという発見を得たのです。

そして、働く女子がオフィスでランチ後に使う「マスカラのような、電動歯ブラシ」と
いう新製品のコンセプトを開発しました。ここで大切なのは、「化粧品のような」にとどまらず、「マスカラのような」に特定するまで、インサイトを掘り下げたことです。

その後、製品を開発するにあたって、技術開発部門との間で議論があったといいます。サイズをマスカラまで小さくすると、既存の電動歯ブラシと同じ「フルスペックの性能」を実現できるかどうか。「もう少し大きくてもよいか」「質感やデザインを化粧品のように女性向けにすれば十分なのではないか」という議論です。

第三者が客観的に見れば、「スペックとしての性能」より「化粧ポーチに入る小ささ」のほうが消費者にとって価値があり重要なことは、すぐにわかるでしょう。これを読まれている方も、議論の余地なしと思われたことでしょう。

しかし、実際の企業内の現場ではよくあることだと思いますが、技術主導で「モノづくり」をしてきた多くの日本企業では、(消費者のニーズより何より)性能や品質が重要という伝統や文化があるのではないでしょうか。

製品上は、さらにマスカラのような「質感」のカラーリングをしています。ここでも、なぜ似たような色が7色も必要なのか?が議論になったようです。女性から見れば、この濃いピンクと薄いピンクは、ぜんぜん違うと感じるバリエーションでも、男性の経営陣からすれば、なぜ?という疑問が湧いたということです。

このポケットドルツは、「女性用のオフィス使用」という新しい市場を創造することに成功しました。2009年度まで、220万本前後で推移していた電動歯ブラシ市場を、2010年度には400万本にまで拡大したのです。

さらに、電動歯ブラシという商品カテゴリーの定義を「歯周病予防のための口腔衛生用品」から、「身だしなみのためのビューティケア・アイテム」に変えることにも成功したといえます。商品カテゴリーに革新をもたらし、リフレーミング(再定義)をすることにも成功したのです。