フランスと英国が2040年までの「ガソリン車、ディーゼル車の販売禁止」を打ち出してから、世界的なEVシフトが喧伝されるようになった。このEVシフトの陰には、実はそれぞれの国やメーカーの思惑が存在している。日本はこのEVシフト競争に勝てるのだろうか。一方、圧倒的なスピードで開発を進めるイーロン・マスクは、EV競争の先の「モビリティの未来」を見ているようだ――。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!

エネルギー政策の裏には、政治的な思惑が存在する

 世界的なEVシフトが喧伝されるようになって久しい。これはフランスや英国が2040年までに「ガソリン車、ディーゼル車を販売禁止」にすると打ち出したことがきっかけとなっている。

 しかし、このEVシフトの陰には、実はそれぞれの国やメーカーの思惑が存在している。いや、EVに限らず、エネルギー政策の裏には何かしらの政治的な思惑が存在するのは歴史の常であると言えよう。

 例えば、19世紀から20世紀にかけて起こった石炭から石油へのシフトを決定づけたのは、当時世界一を誇った英国海軍が、時の海軍大臣チャーチル(のちに首相)の鶴の一声で、一斉に石油動力に転換していったという背景がある。

 第1章の「エネルギー」の進化で見たように、二度にわたる世界大戦は石油の普及を後押しした。航空機は石油の存在がなければ成立しえなかったし、石油の軍需物資としての重要性が高まることで、戦争自体が石油を手に入れるための争いでもあった。米国の石油禁輸措置とABCD包囲網によって石油を確保できなくなった日本が太平洋戦争に突入してしまったのは、日本人の多くが知ることであろう。

 しかし、軍需産業を中心とした石油シフトを横目に、石炭は戦後しばらくの間も、発電などを目的として工場で利用され続けた。

 石油シフトが促されるようになったのは、石炭は燃焼時の煙の中に大量のタールと亜硫酸ガスを含み、それが喘息など呼吸器疾患を人間に引き起こすという問題が深刻化するようになってからのことだった。

 人間の生命を左右する問題によって、石炭から石油シフトへ急速に進んだのである。そしてこの状況を人為的にでも起こそうというのが、フランスや英国のEVシフト宣言と言える。

 確かに石油が枯渇する可能性は否定できないし、枯渇しなくともその生産能力に限界があるのは事実だ。

 またそれ以上に、石油由来の排出ガスによる二酸化炭素を起源とした温暖化の危機も人類として解決すべき課題だろう。これらが現在のEVシフトの大義名分であるのは事実だ。