勝つか負けるかではない、「生きるか死ぬか」の戦い

 そして、そんな未来を目前にした2017年末、トヨタは異例の大掛かりな組織変更を発表した。昇格者56人、異動者121人。副社長、フェロー、専務、常務といった経営陣が占める52ポジションのうち37ポジションで変更がなされ、それらの多くが入れ替わった。

 この体制変更について、大勢の報道陣を前に、豊田章男社長は以下のように語ったという。

 自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保証はどこにもない。「勝つか負けるか」ではなく、まさに「生きるか死ぬか」という瀬戸際の戦いが始まっている。

 これは大げさでも何でもなく、経営者として極めて切実な想いを本心から表現したものであろう。

 トヨタは1997年に発売した世界初の量産型ハイブリッド市販車・初代プリウスを皮切りに、過去20年にわたって「エコ・カー」市場を先導してきた。ハイブリッド車に加え、トヨタは次期エコ・カーとして水素エネルギーで駆動する燃料電池車(FCV)に注力、これを支援する日本政府の後ろ盾も得て、その技術を磨いてきた。

 しかし、ここに来ての世界中でのEVシフト。トヨタの販売数の3割を占める米国では、カリフォルニア州がZEV(Zero Emission Vehicle/無公害車)規制を導入。>

 そして、これにより、2018年からはすべての自動車メーカーはカリフォルニア州で自社製品を販売する場合には、販売台数の一定比率をまったく排ガスを出さないクルマ、あるいは多少は排ガスを出すがクリーン度の高いクルマのいずれかで満たさねばならなくなった。

 そのような節目の直前でのこのセリフは、極めて重大な意味を持つ。特に重要なのは「次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保証はどこにもない」という部分である。

 EVに関しては、国内のライバルである日産にも水をあけられているのは事実であり、自動運転車の普及は自動車そのものの需要を大きく低減させ、モビリティの主役がグーグルのようなIT企業へと移っていくことは容易に想定できる。

 特にグローバル販売台数の首位を争う規模を誇るトヨタの場合、市場の需要が低減することはその巨体を維持する上では大きな問題となる。大きいがゆえに、変化によるネガティブインパクトも大きくなるのである。

 トヨタのような世界最大の自動車メーカーですら、このような危機感を抱いているのであれば、それを下回る規模の自動車メーカーは一体どうなるのだろうか? そのように考える読者も多いだろう。

 例えば、マツダやスバルのような中小規模の自動車メーカーはどうなるのか? その生存戦略については次回、詳しく語る。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)