米国では、多剤耐性菌による腸炎の再発予防に腸内細菌叢の移植治療が承認され、院内感染の拡大抑制に効果を上げた。このほか、過敏性腸症候群、クローン病などの炎症性腸疾患に対する腸内細菌叢移植の研究も盛んだ。
さらに先月、アトピー性皮膚炎患者に健康な人の皮膚の常在菌を移植する治療法の試験結果が、米国立アレルギー・感染症研究所から報告された。
アトピー性皮膚炎患者の皮膚には「悪玉菌」の黄色ブドウ球菌が多く存在し、炎症やバリア機能の破綻に関与している。
研究グループは、健康な人の皮膚から「R.mucosa」と呼ばれる常在菌を採取し、この細菌を添加した水溶液を作製。
まず、成人アトピー患者10人に依頼し、1週間に2回、合計6週間にわたり、肘の内側と自分で選んだ場所に霧吹きで細菌入り水溶液を噴霧してもらった。
さらに9~14歳の5人の小児患者に対し、今度は症状がある全ての場所への噴霧を12週間続けた後、噴霧回数を1日置きに増やし、さらに4週間継続してもらった。
その結果、成人患者10人のうち6人、小児患者の5人中4人で、皮疹などの症状が50%以上軽くなったのだ。小児患者では、黄色ブドウ球菌の勢力の衰えも観察された。一方で、副作用や合併症の報告はなかった。試験終了後に、ステロイドの塗り薬の量を減らしたケースも報告されている。
また、今回の研究では、スキンケア用品に含まれるパラベンなどの防腐剤がR.mucosaの成長を邪魔することもわかった。日々のケアで、常在菌のバランスを乱しては本末転倒だ。十分に注意したい。
研究者は「アトピー性皮膚炎患者の皮膚表面の常在菌は、善玉、悪玉のバランスが崩れ、悪玉菌が炎症や皮膚の乾燥を引き起こしている」とし、今後の研究次第で、皮膚常在菌のバランスを整える新しい治療法が開発できるという。実現すれば、アトピー性皮膚炎に悩む人への福音になるはずだ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)