まず作った参入障壁。類まれなるメタ認知能力
朝倉:2008年に上場されるまでに、エス・エム・エスは事業をいくつか増やしていますよね。どうして、そうした早い段階で多角化されたのですか?
諸藤:売り上げを拡大したかったわけではなくて、参入障壁を作らないとすぐにライバルにやられる、という恐怖心から、隣接領域の事業を増やしていったんです。
参入しそうな会社が取り組まなさそうで、参入障壁になりそうなもの。そしてシナジーの多いものから、徐々にマーケットの大きなものに、介護業界のケアマネージャー紹介業からはじめて、3ヵ月ごとにプロダクトを増やしていきました。
小林賢治(シニフィアン共同代表):事業をやっていると、自分の都合のいいように自己の競争力を解釈しがちだし、実は他社でもできるのに、「俺にしかできない」と思いがちで、自社の実力を客観的に評価しづらいものだと思います。危機感から参入障壁を築いたとのことですが、自社の状況を把握するにあたって、意識していた点はあったのでしょうか?
諸藤:もともと、事業を始める前の段階から、「自分は何者でもない」という自己認識があり、「ポジションが自分にはない」と思っていました。
このコンプレックスから、幼少期から「複雑な現実を複雑なままに見たい」という考えを持つようになりました。逆に、単純化した見方は不快であり、気持ち悪い。自分は絶対にそうなりたくないと思っていました。なるべく感情を排除して物事を見るということが、好きな気質だったんだと思います。
加えて、小さい時から批判的に物事をみる癖がありまして。その状態が客観性を担保していたのかなと思います。
これは頭の悪さも手伝っていたんですけど、ケアマネージャーの紹介で収益が出たときは、「そもそも法律を破っているんじゃないか」と心配になって法律を確認し、破ってなさそうだと分かると、今度は「なんで儲かるんだ?儲かるなら、これはリクルートがやるはずだ」と思ってまた調べました。マーケットサイズを過剰に認識していて、リクルートなんて絶対こないのに、恐怖心は過剰に持っていましたね。
村上誠典(シニフィアン共同代表):マーケットを見てから自分の立ち位置を見る、というアプローチ。普通の経営者は自分の立ち位置からマーケットを見がちですが、逆向きの視点が結果にうまく繋がっていったんですね。
諸藤:謙遜しているわけではなく、「自分は何者でもない」という前提が常にあったんです。また、事業を広げていく中で、介護業界にも、ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達していきなり大がかりなシステムを作る会社もあったのですが、それが凄いことなのかも分からなかったですし、絶対ワークしないんじゃないかという感覚がありました。実際にその会社はワークしなかったんです。
どうして、いきなりシステムをつくる会社がワークしなかったのかというと、介護業界は、行政の動向と、実際の介護事業者の動向と、ユーザーのリテラシーが複雑に絡み合うので、それらを事前に一つのシステムに差し込もうとしてもうまくいかないからです。それなのに、他の会社は技術に自信がありテクノロジードリブンで資金を調達して事業を進めていたので、システムは完成するんだけど、うまく顧客を集めてそれを活用してもらえないままに死んでいくんですね。